ホロライブ・湊あくあの卒業に揺れたVTuber業界 サンリオは新規発掘プロジェクトを始動
■湊あくあが6年の活動にピリオドを打つ 神椿、あおぎり高校からは新人登場 ホロライブ・2期生の湊あくあが、8月28日をもって卒業・活動終了することを発表した。2018年にデビューし、ホロライブの初期から現在までを大きく盛り上げ、自身もチャンネル登録200万の大台を記録したタレントが、6年の活動に幕を引く。 【画像】謎の宇宙人・トコロバと芸人宇宙人・ニックが対決する様子 卒業は本人の申し出によるもので(詳細な理由は配信を参照されたし)、契約解除ではなく正規の手続きによる卒業となる。とはいえ、この発表には同業者からも大きな驚きが広がっており、自身がプロデュースする恋愛アドベンチャーゲーム『あくありうむ。』の新作開発も中止がアナウンスされるなど、業界への影響は大きい。 8月28日は卒業ライブを実施し、記念グッズや企画開催など、ラストランに向けた施策が組まれるとのことだ。経緯を踏まえれば、桐生ココと同様に「卒業生」として今後もホロライブ公式WEBサイトには残ると思われる。最初期のVTuberブームを作り出した立役者の一人がいなくなることはさみしいものの、本人の意思によるものであれば、大手を振って見送りたいところだ。 他方では、KAMITSUBAKI STUDIOが新展開を次々に発表した。まず、IPプロジェクト『神椿市建設中。』のアニメ化が発表された。バーチャルアーティストユニット・V.W.Pメンバーをモチーフにしたキャラクターたちが登場し、各キャラクターの声優はV.W.Pメンバー自らが担当するとのことだ。多方面に展開してきたIPプロジェクトが、メディアミックスの花形であるアニメ化でどう広がりを見せるだろうか。 新規レーベル「少女革命計画」も発表された。バーチャルとリアルを越境する“Xtuber”ユニット・心世紀と、バーチャルシンガーユニット・罪十罰を軸に据え、音楽と物語を連動させる展開を仕掛けるとのことだ。デビュー人数はそれぞれ3人ずつ、計6人。秋にはYouTubeアニメも発表予定らしく、KAMITSUBAKI STUDIOの新勢力として活動に期待がかかる。 viviONが運営するVTuber事務所・あおぎり高校からも一気に3名の新人デビューが発表された。デビューするのは月赴ゐぶき(つきゆき いぶき)、うる虎がーる(うるとらがーる)、八十科むじな(やそしな むじな)の3名で、8月31日にはデビュー配信も予定されている。スタート時点で全員が3Dモデルを持っている点はあおぎり高校の強みだ。「おもしろければ、何でもあり!」をモットーに掲げるこのグループも、気がつけば所属メンバー14人のにぎやかなグループとなっている。さらなる拡大も十分にありえるだろう。 また、『ラブライブ!サンシャイン!!』の桜内梨子役などで知られる声優の逢田梨香子がVTuber・りきゃことして活動を始めようとしている。声優のVTuber活動展開は、今井麻美や徳井青空など着実に事例が増えつつある。初配信は「直近に実施」とのことで、ファンの方はチェックしておくべきだろう。 ■サンリオが新機軸の創作プラットフォームを発表 『サンリオVfes』サテライト開催も決定 サンリオが興味深い動きを見せている。創作プラットフォーム「Charaforio」の発表だ。イラスト、小説、漫画などの創作作品の投稿や閲覧ができるWebサービスだが、最大の特徴はIPホルダー側がIPを登録し、ガイドラインを公開できる点にある。 クリエイターはこのガイドラインを遵守して作品を投稿でき、IP側のページにはガイドラインに則った作品のみが表示される。さらにメッセージ機能を利用することで、IP側がクリエイターに制作依頼をすることも、クリエイター同士のコラボも企画できる。「IPホルダーとクリエイターがつながるプラットフォーム」という、ファン活動が重視される現代ならではのスタイルだ。 このサービスで取り扱うIPには、VTuberもふくまれる。これを活かし、8月13日よりイベント『次に来る新人VTuber大投票~国内編~』がスタートする。参加申し込みをした個人運営の新人VTuberを対象に投票を実施、ファン側はイラストや応援コメントへ「いいね」を付与し、審査員や運営への露出強化につなげる形で応援ができる。 最優秀賞特典は「次回開催予定の『SANRIO Virtual Festival』無料ステージへの出演権」。さらに、その際にはサンリオ負担で3Dモデル化を支援するという、破格の対応もプラスされる。いわばサンリオによる個人VTuber発掘プロジェクトといったところだろう。 そして、今年2月~3月に開催された『SANRIO Virtual Festival 2024』が、「Summer Edition」としてサテライト開催される。9月13日から22日にかけて、同イベントの一部演目や企画が再実施され、『VRChat』上の特設ワールドも再公開される。さらに、新作VRショーや『SHOW BY ROCK!!』キャラクターのVRグリーティングなど、新規コンテンツも追加される。ただの再公演ではない、新規・既存ユーザー問わずうれしい企画だ。 ■『VRChat』の活用はエンタメだけでなく、歴史の記録・保全にも 『VRChat』方面では引き続き、スタンミの配信が連日盛況だ。すっかり有名になった一般ユーザー・トコロバと、既存ユーザーによく知られた芸人的ユーザー・ニックを対決させる配信企画は特に盛り上がり、『RTA in Japan』の裏で4万人以上の同時視聴者を集めた。彼を『VRChat』へ導くきっかけとなった「サキュバス酒場」への訪問もついに叶った。 一方で、社会的意義が深い取り組みも見られた。中日新聞による、中部地方の戦争遺跡を取材した終戦特集企画『語り続ける戦争遺跡』の公式ワールドである。 ワールド内には、これまで「中日新聞Web」に公開されてきたものも含む、戦争遺跡の3Dスキャンデータが設置されている。風化が進みつつある戦争遺跡のデジタルアーカイブ・ミュージアムといったところだろう。各地に点在する戦争遺跡をひとつのデジタル空間に集約することで、一日で見て回ることができるのもポイントだ。 『VRChat』には、中銀カプセルタワービルや摩耶観光ホテルなど、重要な建造物を記録・再現した空間が少なくない数存在する。こうした、今は訪れることのできない建造物の在りし日の姿を残し、いつでも「空間」として再訪できるようにする取り組みは、文化や歴史の記録・保全という観点において非常に重要だ。エンタメにとどまらないソーシャルVR/メタバースの可能性に、報道機関が注目していることに、たしかな流れの到来を感じるところだ。
浅田カズラ