浅木泰昭×堂本光一「王者レッドブルはどこへ向かうのか?」【コンマ一秒の恍惚Web 特別編】
■ハースの戦い方は至極真っ当 堂本 F1参戦4年目を迎えたRBの角田裕毅選手に期待していますが、今シーズンは小松礼雄(こまつ・あやお)さんが新たに代表を務めるハースと激しい入賞争いをするケースが多いですね。そこが日本のファンとしては悩ましいところですが、ハースはチームとしてポイントを獲得するために、ケビン・マグヌッセン選手がタイムペナルティ覚悟でほかのドライバーをブロックして前を走るチームメイトをサポートするという走りが問題視されています。 浅木 私は、ホンダのPU開発責任者に就任したとき(2017年)、部下たちには今のハースのようなことをしてでも勝とうとする意欲を持てと常々言っていました。その頃のホンダはどん底でしたが、戦いとはそういうものですよね。武士のような精神が必要です。でも私が本当に好きなのは野武士。目つぶしをしてでも勝つぐらいの根性をハースの戦いからは感じます。 堂本 F1はルールに穴があれば、そこを突いてくるのが当たり前という世界です。「スポーツマンシップとしてどうなんだ」と意義を唱える人もいるでしょうけど、チームは「ルールの範囲内で戦っている」と反論するでしょう。ハースとしてはポイントを取るために、ああいう戦い方をするしかないですよね。 浅木 その通りだと思います。現状のルールでは許されているんです。みんながそんなことをやるようになればルールを変えればいい。それまではそういう戦いをするしかありません。真っ当に戦えば、レッドブル、マクラーレン、フェラーリ、メルセデス、アストン・マーティンよりも下のチームは、ポイントを獲得することは相当難しい。だから、そういう戦い方をやってでもポイントを狙うのは、むしろ当然だと私は思います。
■角田選手はシーズン前半戦が勝負 堂本 今シーズンも中団グループの争いは接戦ですが、角田選手は開幕から非常に安定した走りでポイントを積み重ねています。大きな成長を感じますが、来季の動向も気になります。 浅木 角田選手はホンダの枠にとどまらず、レッドブルのドライバーになりたいという意志を示しています。もしレッドブル昇格を実現させるのであれば、チームメイトのダニエル・リカルド選手に圧勝するのが最低条件だと思います。その上でフェルスタッペン選手の現在のチームメイト、セルジオ・ペレス選手が結果を出せないという状況になって、ようやくレッドブルの椅子取りゲームに参戦できる可能性があります。 堂本 チームメイトのリカルド選手はF1通算8勝の強敵ですが、今シーズンの角田選手は速さだけでなく安定性でもリカルド選手を上回っています。 浅木 開幕からの角田選手の走りは悪くないと思っています。角田選手はこれまで通りにちゃんと結果を出し続け、変なところでキレたりせず、常にリカルド選手よりも前を走っていれば、レッドブルの重鎮マルコさんもきちんと評価してくれるはずです。 マルコさんは「レッドブルに入ってフェルスタッペン選手と組んでナンバー2ドライバーになったときにどういう戦いをするんだ?」という観点で角田選手の走りを見ていると思います。ですから、チームオーダーにしっかりと対応することも重要です。ペレス選手の契約は今シーズン末までなので、夏ごろまでには来年の動向が固まるはず。角田選手にとってはシーズン前半戦が勝負だと思うので、頑張ってほしいです。 スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝) ●浅木泰昭(あさき・やすあき) 1958年生まれ、広島県出身。1981年、本田技術研究所に入社。第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得する。2023年春、ホンダを定年退職。現在は、動画配信サービス「DAZN」でF1解説を務める。 構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(対談) 写真/桜井淳雄