浅木泰昭×堂本光一「王者レッドブルはどこへ向かうのか?」【コンマ一秒の恍惚Web 特別編】
■レッドブルは自前で競争力のあるPUをつくれる? 堂本 新しいマシンレギュレーションが導入される2026年からホンダと新たに組むアストン・マーティンはファクトリーを拡張し、トップチームからもいい人材を引き抜いて、チーム体制を強化しています。チームの大黒柱フェルナンド・アロンソ選手の残留も決まり、すごく期待できそうです。 浅木 やはりストロールさんというリーダーの存在が大きいと感じます。彼は優秀な実業家で、自分がビジネスで稼いだ金をつぎ込んで、チームを強化しています。そして、「F1で勝つんだ」という強い意志を持っています。かつての本田宗一郎さんやマテシッツさんと同じような情熱を感じます。 実は、私はストロールさんの話を聞くまでは、息子さんを乗せるために道楽でF1をやっているところがあると思っていました。でも実際に彼の話を聞いてみると、「ああ、本気なんだ」と感じました。当然、父親としての部分もありますが、それよりもF1で勝ちたいという執念を持っている人だと感じました。 堂本 レッドブルは新しいレギュレーションが導入される2026年からPUを自社でつくることになっています。これまで車体だけをつくってきたレーシングチームが、いきなり競争力の高いPUをつくることができるものなのですか? 僕はホンダのPUを研究開発するHRC Sakura(栃木県さくら市)を見学させていただきましたが、設備をそろえるだけでも大変だと思いますが......。 浅木 それは私の口からは(苦笑)。でも大変さを知らないからこそチャレンジできるということもあると思います。常識的には無理だろうと思うことでも成し遂げてしまう起業家はいますから、絶対に無理だとは言えません。ただF1に並々ならぬ情熱を持ち、資金面でもレッドブルをバックアップしていたマテシッツさんという強力なリーダーを失った中でやるのは結構大変だと思いますね。 それに堂本さんがおっしゃったように、施設を整え、きちんと稼働するようになるまでには時間がかかります。開発に関しては特にバッテリーは難しいと思います。26年からのレギュレーションでは高出力のバッテリーが必要となります。 堂本 2026年から導入される新しいPUのレギュレーションでは電動モーターの出力比率が従来の2割から5割に大幅に引き上げられます。開発のポイントはどこになるのでしょうか? 浅木 おそらく新しいルールの下ではエンジンはずっと全開で回して発電量を上下させることで出力をコントロールすることになります。そうすると電気の出し入れが競争力の中心になってきます。その点、ホンダは自社で開発しているバッテリーには自信を持っています。一番危機感を持っているのはレッドブルかもしれません。 26年からレッドブルと組むフォードは20年以上もF1を離れています。少なくとも今のフォードに現代のF1に通用するバッテリーや電動化の技術が十分にあるとは考えられません。じゃあ自動車メーカーではないレッドブルがトップレベルの部品や材料を確保して、高性能のバッテリーを開発できるかといえば、ことのほか難しいと思っています。 堂本 新しいマシンレギュレーションが導入される26年、レッドブルは大きな節目を迎えるかもしれませんね。 浅木 今は勝っているので、チーム内に問題が起きていても、あの程度で済んでいるとも考えられます。もしレッドブルが負け始めたら、本当の意味で危機が表面化してくると予想しています。 堂本 レッドブルの将来はフェルスタッペン選手が鍵を握っていると思います。フェルスタッペン選手はレッドブルと28年までの長期契約を結んでいますが、勝てないマシンで走り続けるとは考えづらい。そのまま引退してもおかしくないと個人的には思っています。 それにしてもF1は怖い世界だとあらためて感じます。レッドブルは、PUを供給するホンダ、ニューウェイ氏を始めとするスタッフ、そしてドライバーが本当にいい関係を築いて圧倒的な強さを発揮していたのに、ひとつ歯車が狂いだすと、すべてが悪い方向に流れていっているように感じます。 浅木 F1を数年単位のスパンで見ていくと、レギュレーションの変更によって各チームの成績には波がありますし、人間模様がいろいろと透けて見えてきます。そこがF1の面白さのひとつだと思います。