来日公演やアルバム発表など精力的なジャンギアン・ケラス…円熟のチェロ、自由で刺激的
ジャンルも時代も超えた演奏活動を展開しているカナダ生まれのチェリスト、ジャンギアン・ケラス。今年も精力的にアルバムを出し、来日公演ではみずみずしい音色を響かせた。(金巻有美)
先月末、都内で行われた公演では、デュオ結成30周年を迎えるピアニストのアレクサンドル・タローと、マラン・マレやフォーレ、バッハなどを2夜にわたって披露した。使用したのはストラディバリウスのカイザー。タローと息もぴったりの演奏は実に伸びやかで、聴衆と音楽を分かち合う喜びに満ちていた。
今年出したアルバムもデュティユー、シューマン、バッハと、バロックから現代まで旺盛な意欲を感じさせる内容だ。「デュティユーは10代から接してきた最愛の音楽。シューマンはロマン派の極みの作曲家。バッハは物心ついてから常に自分の横にあった」
デュティユーの協奏曲と交響曲は、グスターボ・ヒメノ指揮のルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団との共演。「グスターボは柔軟にオーケストラを整えてチェロに重ね、緻密(ちみつ)で自然に作品を作り上げてくれた。これほど完璧にこの音楽を聴かせてくれるバージョンは今までなかったと思う」と胸を張る。
一方、シューマンは、バイオリンのイザベル・ファウスト、ビオラのアントワン・タメスティ、ピアノのアレクサンドル・メルニコフら、当代の名手たちとの四重奏曲と五重奏曲だ。「音楽への陶酔感を共有している学生時代からの仲間で、シューマンは全員が熱愛する作曲家。ガット弦やピリオド楽器を使ったことで、シューマンならではの生命力を表現できた」
今年、20年近く演奏してきたジョフレド・カッパからピエトロ・グァルネリに楽器を替えたが、バッハの無伴奏組曲はカッパで録音した。「カッパを使い始めてすぐの頃にバッハを録音した。そして今回、またカッパでのバッハ。僕が積み上げてきた経験、道のりを聴いてもらうという意味では、よかったかもしれない」としみじみ語る。
ジャズやゴスペル、即興、そしてダンスとのコラボレーションなど、クラシックにとどまらない多彩な経験を積み重ねてきた。50代半ばを過ぎ、その音楽はますます刺激的で自由になっていくようだ。「まだ誰もやっていないことを手がけて、音楽に仕えてみたい」