ヒグチユウコとティム・バートンの世界観が融合!『ビートルジュース ビートルジュース』で感じた作家としての“揺るぎなさ”を語る
ティム・バートン監督がその名を世界に知らしめた『ビートルジュース』(88)のその後を描いたホラーコメディ『ビートルジュース ビートルジュース』が公開中だ。死後の世界のお騒がせ者ビートルジュースが大騒動を巻き起こす本作には、前作でブレイクしたマイケル・キートンやウィノナ・ライダーらオリジナルキャストが再集結。バートン監督らしいキモカワイイ世界が満喫できる作品だ。 【写真を見る】ヒグチユウコのお気に入りキャラ!脳みそ丸出しなウィレム・デフォー演じるウルフ 霊能者としてテレビで活躍しているリディア(ライダー)は、父の葬儀に出席するため、一人娘のアストリッド(ジェナ・オルテガ)や母デリア(キャサリン・オハラ)らと実家に戻った。そこは少女時代にリディアがビートルジュース(キートン)に遭遇した因縁の場所。母の霊能力をインチキだと思い込んでいるアストリッドは、リディアの忠告を聞かず、呪文を唱えビートルジュースを呼び出してしまう。 『ボーはおそれている』(23)の日本限定オルタナティブポスターなど映画のアートワークでも活躍している画家・絵本作家のヒグチユウコが、本作の描き下ろしイラストでバートン監督の世界観と融合!「子どものころ、リアルタイムで『ビートルジュース』を観て大好きになった」と語る彼女に、『ビートルジュース ビートルジュース』やティム・バートン作品の魅力も語ってもらった。 ■「考え込むのではなく、なにも考えずに楽しむタイプの映画」 「機会があればビートルジュースを描いてみたいと思っていました」というヒグチが描いたのが、ぎょろりと目をむき不敵な笑みを浮かべるビートルジュース。ジャケットの縞模様にサンドワームがあしらわれ、その下には劇中でビートルジュースの身代わりに命を狙われるボブがいる。「かわいかったボブをちょこっと入れて、サンドワームも足しました。ビートルジュースは予告編の映像を参考に、目は実際よりも少しギラつかせています。マイケル・キートンは昔と変わらない印象でしたが、実際に描いてみると前作はもっとシュッとして若かったですね。でも映画ではまったく歳を感じさせません」。 映画を観終え「テイストはそのまま、コメディ要素が強まってより楽しくなりました」と満足そうなヒグチ。『ビートルジュース』を公開時に鑑賞し、最後にDVDで観たのは十数年前とのことで、細部の記憶は薄れていたが満喫できたという。「逆にフレッシュな気分で楽しめました。そのあと、改めて前作を観直して、答え合わせをするのも楽しいと思います。映画の技術は上がっていても、CGに頼らず手作り感を活かしたところもよかったですね。映画館で考え込むのではなく、なにも考えずに楽しむタイプの映画です」と称賛する。 マイケル・キートン、ウィノナ・ライダー、キャサリン・オハラと前作の主要キャストが揃った本作。36年の時を経て集結した個性派スターの共演も見どころだ。「私は基本的に情報を入れずに映画館に行きたい派なんです。オリジナルキャストが続投していることは試写の案内まで知らなかったので、うれしい誤算でした。マイケル・キートンも大好きですがびっくりしたのはウィノナ・ライダーが相変わらずかわいらしかったこと。前作はいけすかなかった母親役のキャサリン・オハラも、いい感じに歳を重ねていて、前作のまま人生を楽しく生きてきたんだな、と感じました」。 本作はNetflixドラマシリーズ「ウェンズデー」でバートン監督と組んだジェナ・オルテガが加わり、リディアの娘アストリッドを演じている。「彼女にぴったりの役柄でしたね。ジェナは『X エックス』で知って以来大好きですが、少し大人っぽくなったなという想いと、売れっ子になってきたなというダブルの気持ちで見守りました。死後の世界の捜査官ウルフ役のウィレム・デフォーも大好きな役者さん。私の好きな人たちがたくさん出てきてうれしいです」と笑う。 本作の主な舞台は死後の世界。役所のような相談窓口のほか、本作には魂を運ぶソウルトレインや警察署、空港のような出国窓口など新たな舞台も登場し賑やかさもアップした。「現実世界より魅力的なところに、ティム監督らしさが出ています。死後の世界を楽しく描く、メキシコの『死者の日』にも通じる死生観に惹かれました」。ドイツ表現主義を思わせる歪んだセット、特殊メイクや造形によるキャラクターなど、”手作り感 “も大きな魅力。「実際に作ったもので撮るこだわりはすごく好感を持ちました。サンドワームもCGではなくコマ撮りなので、動きが滑らかになりすぎずよかったです。お化け屋敷の実家や衣装を含め、デザインだけでなく質感的にも前作の地続きになっているのがいいですね」。 ■「過去の作品をそのまま活かして描く、ティム監督の“揺るぎなさ”を感じました」 楽しい歌やダンスシーンも見どころの本作には、前作で象徴的に使われたジャマイカの名曲「Banana Boat」も使われている。「お父さんの追悼の歌で『Banana Boat』が使われていました。これは労働の歌なので、『最期まで働く曲なの?』と笑っちゃいました。私の母があの曲を歌ったハリー・ベラフォンテの大ファンで、前作で初めて観た時も驚きましたが、まさか続編でも使うとは(笑)。でもとてもいい曲ですし、楽しい気持ちになりますよね」。 ちなみにお気に入りのシーンを尋ねると、前作と同じくダニー・エルフマンの曲をバックに実写とミニチュアセットを組み合わせたオープニングをあげた。「今回も映画の導入でジオラマの街を映し出すじゃないですか。その中にいるビートルジュースの世界に入っていくというワクワク感がありますね」。 ティム・バートンの監督作はほとんどソフトを購入し何度も観ているというヒグチにとって、バートン作品の魅力は「かわいらしさ、キュートさ」だという。「どんなに怖いお話も、コミカルでかわいらしいじゃないですか。年配の方を含め女優さんをキュートで輝いてとるところもいいですね。クモをはじめ虫をよく使うところも好感度が上がるポイントで、昆虫を魅力的に表現してくれるのもすてきです。(バートンが製作を務めた)『ジャイアント・ピーチ』の公開時には、お小遣いをやりくりしながら映画の昆虫フィギュアを集めていました」と振り返る。 空想世界を緻密なタッチで表現し国内外で高い評価を得ているヒグチは「子どものころから活躍している雲の上の存在」というバートン監督をクリエイターとしてどう捉えているのだろうか。「私は自分の作品を後から手を加えたくなる癖がすごくあるんです。本になっている作品でも、隙あらば描き直したいという。でも『ビートルジュース ビートルジュース』を観たら、ティム監督は過去の作品をそのまま活かして描いているじゃないですか。“揺るぎなさ”を感じました」。 ■「『ビートルジュース』には、いやな気分になるシーンが一つもない」 そんなバートン監督と一緒に仕事をしたいと思ったこともあったという。「いつかティム監督とお仕事できたらいいな、みたいなことを友達と話していました。でも映画は自分が行きたい世界とは違うからな、なんて生意気なことを言ってみたり(笑)」。そんなヒグチは間接的にバートン監督とつながりがある。バートン監督はヒグチの友人である音楽ユニット「黒色すみれ」の大ファンで、来日時にはかつて彼女たちがやっていた店に立ち寄っていた“常連”だった。「お店を閉店する時、彼女たちは監督がお店の壁に描いた絵の部分をくり抜いて持ち帰ったそうです」。 ひと足先に全米で公開された『ビートルジュース ビートルジュース』は、全米9月公開作品として『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)に次ぐ歴代2位の大ヒットを記録している。ほかにも2018年にはミュージカル化され全米で上演、USJのアトラクション「ユニバーサル・モンスター・ライブ・ロックンロール・ショー」ではビートルジュースがDJを務めるなど時代を超えて支持されている。「これだけ長く親しまれているのは、ティム監督ならではのアート要素の強い世界観と、そこにマッチした役者さんの存在が大きいと思います。それにいやな気分になるシーンが一つもないところも大好きです。上映時間もコンパクトにまとまっているし、子どもが観ても大人が観ても楽しめる。それは36年ぶりの今回も同じですね」。 取材・文/神武団四郎
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