寒空はだか先生・桂南海(なんしー)さん ごひいき願います!
デジタル時代だが、落語がブームです。講談・神田伯山や浪曲・玉川奈々福の活躍もあり演芸も元気がいい。チケット入手が困難な人気者も相当数います。この勢いに続けと、若手でも有望な芸人さんが多く登場してきました。彼らに注目しているひとり、落語・演芸を長く追い続ける演芸写真家・橘蓮二が、毎回オススメの「期待の新星たち」を撮り下ろし写真とともにご紹介いたします。 【全ての画像】寒空はだか、桂南海の写真
「知性ある至芸」──寒空はだか
30年以上のキャリアを誇り演芸界に於いて括弧たる地位を築く芸人さんを若手扱いするとは何事かと突っ込まれることは重々承知の上で取り上げさせて頂いたのは1年間の代演及び準会員を経てめでたく8月上席より落語協会正会員に昇格した新たな門出を寿ぐと共に寒空はだかファンが未だ知ることがなかったミステリアスな来歴を解き明かすべく今回ご登場いただいた。 高校生の頃から先代金原亭馬生師匠に憧れ落語家を目指していた。大学進学と同時に落語研究会に所属「大詰亭冷やっこ(おおつめていひややっこ)」として落語に没頭する毎日だったが、落研の大会に出場した折に桁違いの“怪物”に出会ったことで運命が変わる。その“怪物”は圧倒的なセンスと実力で優勝したにも関わらず即落語家にはならなかった。目の当たりにした力量もさることながらプロを目指していたはだか先生にとってはその出来事もショックだった。書店員からその後トップ落語家になる小原君は大学在学中に『純情日記 横浜編』を既に生み出していた。そうその“怪物”は後の柳家喬太郎師匠だった。落語を離れたはだか先生は小劇団ブームの当時、先鋭的な劇団に入団する。それまで身近だった落語的笑いとは全く異質の世界を体感し発想が180度転換、在籍中に演じた即興劇を起点に退団後に活動拠点としていたライブハウスで弾き語りミュージシャンが多数出演する中で唯一楽器が演奏できないことを逆手に取り“真空ギター”の原型を編み出した。その後フォークシンガー姿でのひとりコントから「寒空はだか」となり、現在のスタイリッシュなジャケット姿での漫談スタイルを確立する。 どんな番組に入っても外さないネタ選びと流れを見極める感度の良さ、芸人随一と言ってもいいユーティリティープレーヤーぶりは寄席出演を重ねる毎にさらに磨きがかかっている。若き日感性を揺さぶられ身に纏ったシュールでナンセンスな笑いが寄席の高座でほどよく熟成ブレンドされ極上の味わいになっている。テレビ的な勢いに任せた平板なお笑いとは対極にある独自の切り口と絶妙な角度で笑いのツボを突いてくるはだか先生の至芸には知性を感じる。知性があるとは豊富な経験を踏まえた他者を思い遣る心根を宿していると言うことだ。「タワー、タワー、東京タワーに登ったわ~」演芸ファンなら知らぬ者はいない名曲『東京タワーの歌』がこれからは寄席でも聴けるという贅沢。いつ観ても何度聴いても寒空はだか先生の高座は「良かったわ~」。
【関連記事】
- 演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! ~落語・演芸 期待の新星たち~ 第32回 松林伯知先生、入船亭扇七さん ごひいき願います!
- 演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! ~落語・演芸 期待の新星たち~ 第31回 柳亭市寿さん、春風亭昇りんさん ごひいき願います!
- 演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! ~落語・演芸 期待の新星たち~ 第30回 立川志の彦さん、柳亭市童さん ごひいき願います!
- 演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! ~落語・演芸 期待の新星たち~ 第29回 雷門音助さん、柳家小はぜさん ごひいき願います!
- 演芸写真家 橘蓮二のごひいき願います! ~落語・演芸 期待の新星たち~ 第28回 古今亭志ん松さん、できたくん 先生 ごひいき願います!