金正恩総書記の本意はどこに?米インテリジェンスも四苦八苦…重要性増す「偵察衛星」【ワシントン報告⑭北朝鮮情報の収集】
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が年明け以降、韓国との対決姿勢を強め、米国で本意の見極めに関心が集まっている。膨大な予算と人員を誇る米情報機関(インテリジェンス・コミュニティー)にとっても北朝鮮指導部の内部情報は入手が難しく、上空から撮影する偵察衛星は情報分析で重要な役割を占めている。北朝鮮が核兵器を使用するリスクも顕在化する中で、米当局の元北朝鮮分析官が「最も予測が難しい」と語ったものとは…。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) 北朝鮮は9年前、ひそかに拉致被害者2人の生存情報を日本に伝えていた 今も「なかったことに」 政権にとって「不都合な事実」なのか
▽解像度は30センチ 偵察衛星を使った情報収集を担う米国家偵察局は昨年、今後10年間で偵察衛星を4倍増にし、10倍の画像と信号の情報を入手すると表明した。背景には「中国が宇宙技術に人と金をつぎ込み、米国との技術格差を急速に縮めている」(クリストファー・ポバク副局長)という危機感がある。国家偵察局は冷戦終結後の1992年までその存在すら公表されていなかった。偵察衛星の具体的な数は示していない。 米国拠点の北朝鮮分析サイト「38ノース」で衛星画像の分析を続けるマーティン・ウィリアムス氏は「(北朝鮮側の)フィルターのかかっていない数少ない情報が偵察画像で、極めて重要だ」と語る。核やミサイル関連施設を中心に、わずかな変化も見逃さないよう追跡してきた。 施設周辺の人や自動車、列車の動きに加え、ミサイル発射台の状況や核実験用のトンネルの建設具合などを継続的に観察し、核実験やミサイル発射の兆候、技術の進展状況を探る。普段使う商業衛星の解像度は最高30センチ四方だが、米情報当局はより高精度の画像を使っているとみる。
▽北朝鮮、乏しいレンズ技術 米国の情報収集といえば、スパイを抱える中央情報局(CIA)や、電話・メールなどの情報を集める国家安全保障局(NSA)など巨大な情報機関群で知られる。それでも北朝鮮のように、中国やロシアを除けば外国との交流・通商が限られ、国内の情報統制も徹底した国の情報収集は容易でない。 元CIA長官のパネッタ氏は回顧録で「(朝鮮戦争以降)北朝鮮は長く米国の懸念であり続けたが、長官に就いたとき、政権に関する情報は少なく、そして浅かった」と打ち明けた。 北朝鮮は昨年11月、偵察衛星を打ち上げたと発表した。米韓とも軌道投入には成功したとみている。ただ、少なくとも高度数百キロに達する上空から地上を撮影するには、衛星を適切に制御し続ける技術に加え、高精度なカメラとレンズが求められる。 ロシアはウクライナ侵攻を機に北朝鮮との軍事協力を急速に深めている。昨年まで韓国の国家安保室長だった金聖翰氏は今年2月の米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の会合で「北朝鮮のレンズ技術は極めて乏しく、ロシアに支援を求めるだろう」と語った。