松尾貴史が選ぶ今月の映画『はたらく細胞』
細胞を擬人化した大ヒット漫画『はたらく細胞』を赤血球=永野芽郁、白血球=佐藤健で実写映画化。高校生・漆崎日胡(芦田愛菜)は、父親の茂(阿部サダヲ)と2人暮らし。 仲良し親子のにぎやかな日常。しかし、その体内への侵入を狙う病原体たちが動き始める…。話題の映画『はたらく細胞』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載) 【写真】永野芽郁、プラダのショーに来場
人間の体内を描いた映画のベスト!
人間は、「自然」を生活環境から遠ざけたり、コントロールしたり、都合の良いように改造したりすることで社会を発展させてきました。 森を開き、山を崩し、海を埋め、道具や機械を作り出し、高速で空を飛び、海の上に街のような船を浮かべ、電波で地球の裏側、あるときは宇宙と交信し、科学技術の発達でもう不可能なことはないと錯覚する人たちも大勢出てしまいました。 しかし、どう遠ざけようにも限界があります。なぜなら、私たちの肉体そのものが「自然」だからです。病気を改善させたり、レントゲンやCTやMRIによってつぶさに観察し、治療や手術に利用することはできるようにはなりましたが、根本的な操縦は永遠のテーマのままです。 このカラダは、一体誰の意思で、発案で、このような仕組みになったのか。考えるだけで哲学的な領域に入り込み、連鎖反応でノイローゼになりましょう。でも、このカラダについて、興味を持たない人はいません。全人類が共通して関心を持つテーマ、それが「カラダ」なのです。 「はたらく細胞」という題名を目にした時、「はたらく車」という子供用の絵本を連想しました。きっと、私たちの体内を構成し活動させている細胞についてわかりやすく教えてくれるお話なのだろうと思ったのです。しかし、ドキュメンタリーではなさそうです。ポスターを見たら、エンターテインメント以外の何物でもない。私はとんと存じ上げなかったのですが、原作のシリーズはアニメ化もされている人気作品なのでした。 配役を見ると「赤血球=永野芽郁・白血球=佐藤健」です。血球を擬人化しているのですね。それだけではなく、あらゆる種類の細胞を俳優たちが活き活きと、あるときは健気に、あるときはおどろおどろしく好演しています。そして、人間自体を演じている俳優もいます。阿部サダヲ・芦田愛菜は人間の親娘なのです。芦田さん、いい俳優になりましたとまるで親戚のおじさんのような気持ちで見てしまいました。 もちろん物語なので、困難に立ち向かう群像劇が体内でも体外でも繰り広げられます。概念図でしか見たことのない体内の様子を可視化する腕前には感服するばかり、そこへ役者の演技が素晴らしい味付けとなっていちいち細胞たちに肩入れしてしまうのです。こんなに面白い娯楽大作だったとはまるで想像の外でした。 体の中のいろんな場所を街に喩える場面では、飲み屋街などの店の看板にもご注目を。美術担当者も思い切り遊んでいるなあと撮影現場の雰囲気を思わせてくれます。人間の体内を描いた作品としては、1966年『ミクロの決死圏』、87年『インナー・スペース』などが思い浮かびますが、2024年の『はたらく細胞』は、それらを超越したのではないかと個人的には思っています。 (C)清水茜/講談社 (C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社 (C)2024映画「はたらく細胞」製作委員会 Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito