規制の「ガラパゴス」批判は本当?◆自動車不正の背景を探る【時事ドットコム取材班】
◇「ガラパゴス」に反論―国交省
一方、多数の不正事案が見つかった認証制度のほうに、問題はなかったのだろうか。そして、この規制は日本特有の「ガラパゴス化」したものなのだろうか。 国交省の久保田秀暢物流・自動車局次長は「国内で走っている日本車は、(日本メーカーが生産、販売する)全体の15%に過ぎない。7割は海外で生産され、日本で造られている3割のうち、半分は輸出している」と日本車の現状を説明する。 日本は、自動車の国際的な基準と認証ルールを策定する唯一の機関である「国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」(本部・ジュネーブ)に1998年加盟。1つの国で認証を得られれば、加盟する他国での認証作業を不要とする「認証の相互承認」の協定に、EUや韓国、マレーシア、南アなど日本も含め計62カ国が参加している。政府による認証制度がない米国なども「基準調和のみのための協定」には加盟しており、各国の基準をなるべくそろえる仕組みがある。 締約国は「衝突基準」や「排ガス基準」など装置ごとに国際基準の採用を約束する仕組みだが、日本は、国際基準がない内装やワイパーなど4項目を除き、乗用車全ての国際基準を採用済みという。久保田次長は「かねてより国際化の中で基準認証を考えている」と話し、ガラパゴスではないと否定した。 ◇異なるやり方「認められず」 基準は、実際に起きたの事故の状況や、市中に出回っている車両の平均重量を基に算出されている。認証の相互承認により、日本で一度認められれば、EUなどの加盟国での認証作業が省略できるメリットがある。一方で、久保田次長は「基準そのものは複雑で、基準項目は自動運転や電動車の安全基準など、どんどん増えているのは事実」とプロセスの複雑化を認めている。ただ、「排ガス基準も含め、1つ1つ守ることで国際的な信頼を得ている」とも話す。 例えば、今回トヨタから報告があった6つの不正事案は「衝突試験で1100キロの台車を使う」との要件も含め、いずれも国連規則で定められている項目だった。「1800キロでぶつけたら、より安全でいいじゃないかということだが、あまり重くすると、車体フレームなどをより強固にする必要があり、ブレーキ性能や燃費性能が低下するなど、別のところに悪影響が出る可能性がある」(久保田次長)。 頭部に模した重りをボンネットに当てる角度も、国連の基準とは異なったため、ボンネット内のエンジンや隙間の大きさ、当てる場所によって、必ずしもトヨタの主張するように、より厳しい試験を行ったと判断できるかどうかは分からない。国交省が改めて精査する必要があるとの立場だ。 久保田氏は「材質やぶつける面積などが全く同じではない以上、国際基準に合ったものか確認する必要があるが、今回のように事前に何も申請がないと、本当に(トヨタの主張する)厳しいケースなのか、大丈夫なのかを確認できない。外国で同じことをしても、事前に説明なく持って行けば、正規なデータとして認められないというのが国連のルールだ」と強調した。 ◇国際枠組みリードに影響も 国交省がここまで神経質になる背景には、国連規則をめぐる主導権争いがある。 国連WP29には本会議の下に、排出ガスや衝突安全など6つの分科会があり、日本は、本会議の副議長のほか、自動運転や、EV環境性能など将来拡大が見込まれる分野の専門家会議の議長・副議長ポストを確保している。「協定に参加し25年を掛けて信頼を得て、日本が強みを持つ自動運転などの分野で積極的に議長、副議長ポストを取って、日本に不利な基準をヨーロッパに決められないように主導している」(久保田氏)。 2015年に独フォルクスワーゲンによる排ガス不正が発覚した際、「ドイツは問題を受けて、排ガス分科会の議長を辞任し、その後5年間は主導権を取れなかった」(久保田氏)という。 今回の日本メーカーの不正により、加盟から四半世紀を掛けて育んできた信頼を損なったり、ライバルに台頭を許すような事態になったりしかねないことを、国交省は憂慮しているようだ。 国際規格にも詳しい自動車ジャーナリストの清水和夫氏は「日本の自動車産業のブランドは大丈夫かと海外から見られている。信頼できる自動車産業として国際競争力を持つことは重要で、行政もメーカーも一丸となって再出発する時だ」と話す。自動運転や電動車の普及で、ますます試験項目が増える認証制度の合理化に向けては、デジタル化を進めるとともに、国連WP29に試験項目の改善を提案していくなど、官民で取り組むべき課題は多い。