規制の「ガラパゴス」批判は本当?◆自動車不正の背景を探る【時事ドットコム取材班】
トヨタ自動車、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社が6月、自動車や二輪車の量産に必要な「型式指定」に関する認証不正を相次ぎ発表した。国土交通省は、5社に立ち入り検査を実施し、不正が判明した車の安全性や、企業の管理体制を検証。日野自動車やダイハツ工業、トヨタ自動織機に続き、軒並み見つかった自動車メーカーの不正の背景と影響を探った。(時事ドットコム取材班・編集委員 豊田百合枝) 【ひと目で分かる】自動車認証不正を巡る最近の動き ◇「厳しい」試験、安全の判断は… 「本来よりも厳しい試験をやった」(豊田章男トヨタ自動車会長)―。6月3日、不正事案の公表を受けたトヨタの記者会見で豊田会長は「認証制度の根底を揺るがすもので、絶対にやってはいけない」との認識を示す一方で、こう説明した。「法規基準はクリアしているので安全にお使いいただける」。 認証試験は、あらかじめ安全性や排ガス・環境性能について国の審査を受けて、大量生産に必要な「型式指定」を取る制度。型式指定のお墨付きがあれば、1台1台検査を受けなくても済む。 消費者からみると、企業が認証試験より厳しいテストを行い、車が安全なのであれば、不正ではなく単なるミスではないのかとの印象を受ける。認証試験が実態に合っていないのなら、試験のほうが過剰なのではないかという疑念も浮ぶ。ネット上では、国交省の制度は、日本特有の「ガラパゴス」状態で日本メーカーの国際競争力をそぐ状況になっているのではないかと批判する声も上がっていた。 これに対し、国交省は「定めた基準を本当にクリアしているかどうかは、今まさに調べているところ」(幹部)と企業任せではなく、同省として改めて確認作業を進める方針だ。車の性能は、燃費や排ガスといった環境性能だけでなく、電動化に伴う新機能の追加などで、年々高度で複雑になっているが、日本の制度は独自の「ガラパゴス」化したものなのだろうか。 ◇手順や条件守らず、虚偽記載も それを検証するため、改めて今回の不正の中身と経緯を振り返ってみる。国交省は2024年1月、ダイハツの不正拡大を受けて、自動車メーカー各社に一斉調査を指示。その結果、不正が相次ぎ見つかった。 試験を行う際に、本来の手順や条件を守らなかったケースが多く、試験を省略したり、ばらつきの出たデータをきれいにそろっているように見せたりする事例があった。中には、虚偽データの記載や、制御ソフトを書き換えるなどの行為も見つかった。 冒頭のトヨタの主張は、例えば、後ろから衝突された時の燃料漏れを確認する試験で、ぶつける台車を定められた1100キロよりも重い1800キロにしたのだから、決められたやり方ではないが「より厳しい試験をした」というもの。また、歩行者と衝突した際の衝撃を測るテストでは、人間の頭部を模した丸い重りをボンネットに当てる角度について、定められた50度ではなく、衝撃が大きくなるはずの真上からに近づく「より厳しい条件」(トヨタ幹部)の65度で行ったと説明した。 不正を行った時期については、既に生産を終了している車を対象とする10年前に実施した試験や、現在でも生産中の車を対象にしたものなど、さまざま。不正の内容も異なるため、一概に不正の重い、軽いを判断することはできないが、国交省は、トヨタとマツダ、ヤマ発で現在も生産中の車種については、出荷停止を指示。同省が安全を確認したマツダとヤマ発の3車種については、6月28日に出荷停止を解除したが、トヨタでは調査が継続している。 ◇開発>認証の社内事情 それにしても、なぜ、このような不正が多くのメーカーで行われていたのか。作業員の思い込みや効率化を重視した虚偽記載、現場で自己判断した誤りなど、思惑や理由は、それぞれの案件で異なるとみられている。認証試験を行う組織体制など、各社で異なる事情もあるが、共通して言えるのは「社内で声の大きい開発部門がこだわりを持って開発を進め、結果的にスケジュールが後ずれする一方、営業サイドは発売日や販売計画を既に決めており、最終試験を担う認証部門でデータの誤差などが出ても、もう一回試験をやり直すと声を上げにくい状況があるのではないか」。ある大手自動車メーカーの関係者はこう解説する。 自動車業界の開発・販売競争は内外でし烈だが、不正が明るみに出れば、今回のように出荷停止を余儀なくされるケースもある。今後は開発スケジュールに余裕を持たせたり、再テストが必要になった際に販売計画を見直したりする柔軟な対応が求められることになる。 再発防止に向けた対策では、トヨタの豊田会長が「不正の撲滅は無理だと思う」と認証作業が複雑かつ多岐にわたる難しさを吐露した上で、「間違いが起こったときにそれを直していくサイクルを繰り返す必要がある」との持論を展開。現場で起きた問題を吸い上げる仕組みの構築を急ぐ考えを示した。 ホンダの三部敏宏社長は「虚偽記載は許されるべきではなく、そのままのデータが入るような形にシステムを変えることで不正が起きないようにしたい」と述べ、デジタル化で人の介在を減らすとともに、法令順守の重要性を社内に徹底させる方針だ。