〈漫画〉サウナ漫画を描くきっかけになった妻との死別…ポケモンのコミカライズ作者が67歳にして初のオリジナル漫画に挑戦した理由「なにかを始めるのに遅すぎることはないから」
「昔はとにかく細かく小さく、今は大きく見やすく!」
――ストーリー漫画はもちろんですが、コミカライズは原作となる版元との打ち合わせなどもあり、違った意味で制作が一段と大変そうです。くにおくん、ポケットモンスターのときはどのような制作環境だったのでしょうか? くにおくんに関しては、自由に描かせてもらったんですが、ポケモンはやっぱり年々キャラ数が増えていくので覚えるのが大変。ポケモンの描き方も正確に再現しなければなりません。 1996年のゲーム開発当時からコンテンツとしての規模も大きくなり、歳のせいか物忘れが増えてきたこともあって本当に大変です(笑)。 ――穴久保先生はウェブでの連載作品が増えてきましたが、雑誌と比べて原稿の描き方などは変わってきたのでしょうか? 私はずっと制作環境がアナログなのですが、ウェブになってからはコマ割がかなり変化しました。 当時の雑誌はコマ数と描き込みを増やすようにするのが主流でした。大きいコマを作ると「贅沢だ!」と編集部からドヤされることがあって。同じくコロコロで『スーパーマリオくん』を描いている沢田ユキオ先生も、とにかく内容を詰めろとおっしゃっていました。時間をかけてじっくりと読んでもらえる時代でしたので、そういった方針だったでしょうね。 ただウェブとなるとスマホで読んでもらうことがメインになるので、とにかく見やすい原稿を作らなくてはいけません。だから必然的に1コマを拡張して、大きなコマ割を意識する必要があるんです。『サウナウォーズ』もウェブ連載だから、大ゴマを意識して描くようにしています。 個人的には内容を細かく詰めて描きたいんですが、今は娯楽があふれていますから、読んでもらえるように配慮するのは仕方ない気もします。このご時世、読者がいるだけでありがたいですからね。
「できれば机の上で死にたいですね(笑)」
――『サウナウォーズ』で漫画家として新境地を迎えられるなか、ひたむきにペンを握り続ける姿に感銘を受ける読者も多いです。いまだにモチベーションと熱意を持ち続けられる秘訣について教えてください。 とりあえずやめようと思ったことはないですね。漫画家として一花咲かせてやるという気持ちもありましたし、何より世間知らずだったから漫画に専念することができた。東京にはいろいろな遊びの誘惑がありますが、基本的に部屋の中で漫画を描くだけの生活になっていたので、やはりそうした辛くも楽しかった日々が僕をいまだに漫画家として成り立たせているのかもしれません。 ただ僕には漫画家仲間が何人もいるんですが、やめて地元に帰った人間も多いです。熱意だけではどうにもならない問題もあるので、自分としては漫画家を続けようと思える環境、読んでもらえる読者がいることが幸いでしたね。 ――人間、精神的に成熟していくと失敗を恐れて新しいことに挑戦しようとしない傾向になっていくと思われますが、穴久保先生は最後まで漫画家としてあり続ける、と。 究極のことを言ってしまえば、机の上で死にたいですね(笑)。まあこれは大げさですが、自分は人生の楽しみを仕事に落とし込めているので、今でも続けられるんだと思います。 だから余力のあるうちに『サウナウォーズ』を描くことができて本当によかった。身体は着々と限界を迎えつつあるのですが、そのときが来る前になるべく自分のやりたいことをやったほうがいい。何かを始めるのに遅すぎることなんてないですからね。 だから、僕はこの『サウナウォーズ』をもっと描きたいので、みなさんコミックスを買ってください!
取材・文/中田椋/A4studio
集英社オンライン
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