村上春樹、かつての青山通りに思いを馳せる「なんとなく自由っぽい、風通しのいい雰囲気がありました」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。11月24日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話5~」をオンエア。好評の「村上の世間話」シリーズは、村上さんが何気ない日常の中で体験したエピソードを、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届け。 この記事では、40年ほど前の東京・青山通りでのエピソードを語ったパートを紹介します。
◆Randy Newman「Mama Told Me Not To Come」
ランディ・ニューマンの歌を聴いてください。「ママ・トールド・ミ-・ノット・トゥー・カム」、母さんには来るなって言われたんだけど……。お母さんの言うことはできるだけ聞いたほうがいいです。バックのスライド・ギターはライ・クーダーです。 <世間話②> 青山通りも昔は高層ビルなんてなく、会社みたいなものもほとんどありませんでした。スーツを着たサラリーマン風の人の姿もあまり見かけなかったですね。カジュアルな格好でそのへんをぶらぶらしているのは、だいたい自由業者というか、なんとなく暇そうな人たちで、たとえば安西水丸さんとか、和田誠さんとか、糸井重里さんとか、道を歩いているとそういう人たちにしばしば出会いました。もちろんみんな忙しい人たちだから、なにも暇でぶらぶらしていたわけじゃないんでしょうが、でもまあなんとなくそういう自由っぽい、風通しのいい雰囲気がありました。 今では表参道も青山通りもすっかり賑やかになり、人通りも増えて、週末なんかはまっすぐ歩けないくらい混み合っています。おかげでその「ぶらぶら感」もほとんど消え失せてしまいました。通っていたレコード屋さんとか書店とかもどんどんなくなって、淋しい限りです。 和田さんも水丸さんも残念ながらもう亡くなってしまいましたが、でも通りの角を曲がると、向こうから彼らがふらりと歩いてやってきそうな錯覚に襲われることが、今でもあります。水丸さんとはよく飲みに行きましたね。あの人は気持ちよくお酒が飲める、こぢんまりした店を見つけるのがとても上手なんです。そういうことには何しろまめな人でした。 (TOKYO FM「村上RADIO~村上の世間話5~」2024年11月24日(日)放送より)