今夜注目世界再戦の村田諒太は“哲学”で勝つ!
村田は、ブラントに敗れ、一度は引退に気持ちが傾いたが、もう一度リングに上がることを決意し、ブラントとのリマッチが決まる過程の中で、この本に出会い「過去の名誉にとらわれず、与えられた場所で、自分らしく生きること」を学んだ。 「自省録」の中でアウレリウスは「あらゆる名誉欲が君を悩ますのか。あらゆるものの忘却がいかに速やかに来るかを見よ。人々の気の変わりやすいこと、我々の住むところがこの地球の片隅にすぎないことを見よ」と語り「すべてが主観にすぎず、その主観は君の力でどうにでもなること。あなたの意で主観を放り投げなさい」と説いた。ロンドン五輪の金メダル、エンダム騒動、一度は巻いた世界のベルト……村田が築いた過去の栄光などは、すぐに忘れさられるもの。過去の成功や、名誉欲に縛られて生きづらくなるならば、そんなものは捨て、「自分に与えられた場所で精一杯に楽しく生きることに価値がある」ことを村田は教えられたという。彼が、人生を左右する決戦を前に落ち着いていたのは、その思想の影響だ。 「戦う哲学者」と称されるほど、村田は読書家だ。自宅の本棚にギッシリと本が並ぶ父の影響を受け、これまでもヴィクトール・フランクルの「夜と霧」の「人生に意味を求めるのではなく、人生からの問いかけにどう答えていくか」との教えに感化され「ありのままの自分を受け入れること」を学びスランプを脱出。初の世界挑戦となったアッサン・エンダム(フランス)との試合に疑惑の判定で敗れたときには哲学者アドラーの思想に触れ「誰かのために戦うことが勇気に変わる」ことを知りリベンジを果たす。スティーブ・ジョブズの自叙伝から、神学者、ラインホルド・ニーバーの「ニーバーの祈り」まで目を通す読書家の村田は、ボクシング人生の大きな節目で、また大切な一冊の本と出会ったのである。 本田明彦会長は、先日、公開スパーリングの際に「この試合に勝つか負けるかは、村田の気持ちの勝負」と言った。前回の試合の敗因は明らかで、足と手数で翻弄され、1262発ものパンチの嵐にさらされた。距離を潰し前に出られるかどうか。技術以上にメンタルの持ち方が重要な試合になるのだ。イラついて喧嘩腰ではいっては相手の思うつぼ。あくまでも冷静に戦略的にラウンドを支配していく必要がある。