「夫・三浦友和」と出会って50年…「山口百恵」はなぜ、芸能界に復帰しなかったのか 2人の証言から紐解く
もしも復帰していたら
振り返ってみると、復帰を待望視する声は強かったものの、その可能性は最初からなかったように思える。一方で仮に復帰していたら、途方もないほどのビッグビジネスになっていたのは間違いない。 まず、NHK「紅白歌合戦」に出て、記録的な高視聴率をマークしていていたのではないか。紅白スタッフは1990年代、超目玉ゲストとして百恵さんの招聘を目論んでいたとされる。 2019年に百恵さんが出したキルト作品集『時間(とき)の花束 Bouquet du temps』(日本ヴォーグ)は20万部を突破した。専門書と呼べる手芸本がここまで売れるのは異例中の異例だ。百恵さんの本なので売れたのは言うまでもない。 現役時代に所属していたソニーミュージックからは今なお数年おきに企画作品が出ている。昨年11月には百恵さんのディスコ&ソウル調の作品を集めた「GOLDEN☆BEST MOMOE DISCO & SOUL」がリリースされた。これも売れるから、発売される。 ただし、当の三浦夫婦には百恵さんによるビジネスには関心がない。目立たない作業だった『時間の花束』の出版すら躊躇した。 「妻は迷っていたんですよ。でも還暦になる前のお話で、記念に出してみたらどうかと師匠の鷲沢玲子さんが背中を押して下さったことが決断の一番の大きな理由だと思います。妻とは『出すなら、(印税は)寄附を考えたほうがいいね』と話していて、実際にいろいろなところへ寄附をさせていただきました」(三浦、週刊新潮2020年7月30日号) 2人は夫婦仲がすこぶる良いことで知られる。これも復帰がなかった遠因ではないか。2人が結婚以来、1度も喧嘩をしたことがないのは有名な話だ。「私は彼のためになりたかった」という願いも仲が悪かったら実現させるのは難しいだろう。 「(夫婦喧嘩は)なんのプラスにもならないのに、エネルギーを費やすのはもったいないと本気で思っている」(三浦著、『相性』より) 背景には三浦の俳優人生が順風満帆だったこともあるだろう。ここ10年の映画の仕事を振り返っただけでもそれは分かる。「アウトレイジ ビヨンド」(2012年)では卑劣なヤクザの組長を演じ、好評を博した。 「64 -ロクヨン-」(2016年)で貫禄ある警察幹部を演じたと思ったら、「風の電話」(20年)では身内の死が重なって泣きじゃくる女子高生を懸命に慰めるやさしい男に扮した。 「ケイコ 目を澄ませて」(2022年)では視覚を失いつつある、老いたボクシング指導者を演じた。準主演である。作品は評判高く、キネマ旬報ベスト・テンの日本映画作品賞など映画賞を総ナメにした。 ドラマはTBS「クロサギ」(2022年)に準主演級で出た。詐欺師の世界を裏で牛耳る黒幕役だった。ここまで息長く活躍する俳優は珍しい。演技の幅の広さが武器になっている。 百恵さんは1980年10月5日に東京・日本武道館で行われたサヨナラコンサートでファンに向かって「幸せになります」と公約した。その約束を果たすためには復帰は不要だった。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
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