ヒゲ脱毛と投資教育 共通する「現代社会の闇」 田内学
物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2024年11月4日号より。 【写真特集】こんな人まで撮影できたの?表紙の意外な大物たち * * * ヒゲが生えている男はモテないそうだ。 なんの話やねん。そう思って読んでいるとヒゲ脱毛の広告だった。最近では、若い人の間でヒゲ脱毛をする人が増えているとも書かれていた。たしかに、毎日ヒゲを剃るのも面倒だし、ヒゲ脱毛をするのもありだなと少し考えてしまった。 「モテない」といった不安を煽(あお)る言葉に、僕らは敏感に反応してしまう。今回のタイトルにつけた「現代社会の闇」というネガティブなフレーズが気になって、この記事を読んでいる人も多いのではないだろうか。 「不安ビジネス」という言葉がある。「みんなやっている。やらないと損だ」といわれると焦りや不安を感じる。物にあふれている現代において、消費者にお金を使わせるために、不安を煽って需要を生み出す戦略がよく使われている。 投資や教育などの分野は、こうした不安ビジネスのターゲットにされやすい。「みんな投資していますよ」「みんな勉強していますよ」と言われると、つい気になってしまうものだ。 「子どもへの投資教育は、いつから始めればいいんですか?」。この手の質問を親御さんからよく受けるようになった。雑誌などの取材でもよく聞かれる。「投資」と「教育」を組み合わせた「投資教育」は、不安を煽るのにうってつけの言葉だ。 学校教育で始まった金融教育が、この「投資教育」にのみ込まれつつある。 本来の金融教育は、お金や金融の働きを理解して、自分の生活をよくするだけでなく、よりよい社会作りができるような行動を養う教育だ。自分の生活といっても、お金を増やすことだけでなく、病気への備えや人生設計、消費者教育など広範囲にわたる。 投資の話は金融教育の一部でしかないのに、不安に駆られた親たちは、「学校で投資を教えてもらえる」と期待しているし、私立の学校では、「投資を教えなければいけない」というプレッシャーを受けている。金融機関から送り込まれた講師に金融商品の説明をしてもらって、金融教育をした気になっている学校も少なくない。