なぜ危険が迫っても逃げないのか 平成30年7月豪雨の検証を
片田敏孝・東京大学大学院特任教授 「マスコミの報道姿勢にも問題」
しかし、これらの改善策をもってしても、平成30年7月豪雨で甚大な被害が生まれてしまった事実は、重く受け止める必要がある。 WGの会合の中で、片田敏孝東京大学大学院特任教授(災害社会工学)は「災害があるたびに災害の情報を充実する、対応を充実させる。それをして今後本当に災害がなくなるのか、というとおそらくなくならないと思う。気象庁がどれほど頑張っても、地域の人々すべての行動を適切に誘導するような情報は未来永劫出すことはできない。であるにも関わらず、『情報が適切ではない』『行政は反省しろ』といった議論の連続にどのような意味があるのか。人々に理解を深めてもらうために行政はどうすればよいのかという議論をしているが、それは違う」と持論を述べる。 そして、マスコミの報道姿勢も問題視する。「特別警報が11府県に出れば『乱発だ』と批判する。気象庁が災害のたびにさまざまな情報を付け加えたら、『こんなにたくさんあると難しくて読み取れない』。避難勧告が出ていても『避難指示が遅い』、特別警報が出れば『避難指示がそれより遅れた、何をやっているんだ』と。そして国民も同じように理解し、自らの努力を怠るようになる」。本来、自分の命を自分で守ろうとすることに懸命でなければいけないのに、災害に対して受け身になることを助長しているとの指摘だ。 こうした中で、これまでと同じ方向性でどれだけ議論を尽くしても、予想外の災害が起きれば、また大きな被害が発生し、新しい課題を解決するために情報の改善に取り組むことになりはしないだろうか。
主体的に行動するために必要なことは何か
それでは、人々が受け身ではなく、主体的に行動するにはどうすればよいのか。 平成30年7月豪雨では、避難行動を起こさずに犠牲になった人もいれば、避難行動したがタイミングが遅く途中で犠牲になった人もいた。また、その一方で、現状の情報の体系であっても、避難準備情報など早めの段階で行動を起こして助かったと思われる人々も数多くいたと考えられる。 片田教授は「例えば私が聞いたらそれはたいしたことがない理由に思えたとしても、逃げない人にとってはその人なりの逃げない理由があるはずだ」という。 こうした一人一人の逃げなかった理由、逃げるのが遅れた理由、逃げた理由は何なのか。もしかしたら子供が泣くから避難所に行くと迷惑になると思ったのかもしれない。父親が会社から帰るのを待っていたのかもしれない。病気で寝込んでいたのかもしれない。避難して何もなかったら恥ずかしいと考えていたのかもしれない。避難したくなかったが、他人に腕を引っ張られたのかもしれない。 こうしたことを詳しく検証し、そのうえで見えてきた避難行動を妨げる障壁を一つ一つ取り除くことが今必要なのではないだろうか。そして、障壁を取り除こうとした時には、高齢化、地方自治体のあり方、働き方改革、貧困といった、さまざまな社会問題と向き合うことが求められることになるはずだ。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)