踏み出せずにウズウズしちゃってる人必見! 仲野太賀さんと阿部裕介さんが語りあう、僕らが旅に出る理由。
ムズムズするなら行ってみようよ!
阿部:話を遡って、そもそもどうしてニューヨークから始まったかというと、俺が仕事でニューヨークに行く日と上出さんの帰国日が一緒で、「じゃあ一緒の飛行機にしようか」ってなって。とりあえず太賀も入っている三人のLINEグループがあったので、冗談まじりで「太賀も来る?」って送ったんですよ。「いや、行けないよ、さすがに」って返信があったんですが、後で聞くと、太賀、そのときにはもうニヤニヤしてたって(笑)。 仲野:そうそう(笑)。いろいろ悩んだんですが、一日遅れで「やっぱ行けないわー」って送ったときにはもう羽田にいたんですよ。 伊賀:その頃太賀と現場一緒だったけど、「ニューヨーク行っちゃいます」って顔がキマってたもんね(笑)。 仲野:「行くしかないっしょ!」って。たしかそのときも何かのドラマの撮影中で(笑)。 阿部:飛行機のWi-Fiを使用してたんですけど、ニューヨークにいる太賀の写真が送られてきて。上出さんに聞いたら、「太賀はこの間もニューヨークに来てたし、そのときのやつじゃないか」って。だけど、太賀がだんだん本当にニューヨークにいるような感じになってきて。太賀とグルで、ドッキリを仕掛けようとしてるんじゃないかって、俺と上出さん、ずっとお互いを信用できなくなっちゃって。入国にすごい時間がかかってしまって、タクシーに乗った時にはふたりともヘトヘトだったんですよ。「もう、ぶっちゃけどうなの?」って聞いたら、上出さん、本当に知らないって。そのときにふたりの間でちゃんと意思疎通がとれて、「マジで来てたら、太賀、ヤバいやつだね。そもそもホテルもとらずに夜中の十二時にニューヨークをふらふらしてるなんて絶対にない。今活躍してる俳優なのにありえない」って話してて。 仲野:そしたら、ピンポーンって(笑)。 阿部:上出さんの家に到着して、さすがに疲れすぎたから寝ようってなったら、本当に太賀がやって来て。そっからみんなでカラオケ行っちゃったもんね、寝ないでね。 仲野:いや、長かったよ~。一緒に行ったら単独行動できないだろうなと思ったから、ふたりより半日くらい先の便で行って。朝の九時にはニューヨークに着いて、そこから美術館をふたつ回って、ロシアンサウナに行ってボルシチを食べて、マッサージにも行って。まだかな、まだかな、と(笑)。夜のニューヨークって怖いから、バーに行くって感じでもなくて、ダイナーに入って上出さんの『歩山録』を読みながら待ってました。あれが全ての始まりでしたね。 阿部:カラオケ行ってからも遊び回って、それでピザ屋に行って帰ろうぜってときに、ネパール行きたいよねって話になってね。こんなにおおごとになるとは思ってなかった。 仲野:本当だね。こんなことになるなんて(笑)。ニューヨークでピンポンしてから、本の発売までがちょうど一年くらい。伊賀さんが俺と上出さんが会う機会を作ってくれたのが去年の夏。それから上出さんとアラスカに行ったのが八月。その年の十二月にピンポンして、二月にネパール、三月に雲取山に登って、四月はアメリカに行って。生き急いでるね。 伊賀:どこに行くのだって旅と言えるだろうし、自分一人だと腰が重いようなことでも、三人のようなノリのきっかけで行っちゃえばいいって伝わってくる。『地球の歩き方』と、沢木耕太郎文学みたいなモノのリミックス旅行記(笑)。 仲野:嬉しいですね。『地球の歩き方』と『深夜特急』の間を狙えたらなって。 伊賀:今だとネットがあれば何でも擬似体験できるじゃない。下手すればネパールに行ったことがなくても、行ったことがあるって言えたりもする。じゃあなんでそんなところに行くんだって言ったら、楽しいからだって。写真にも文章にもその気持ちがいっぱいに詰まってると思う。だからいつかこの本をネパールで発見したら最高だよね。誰かがこれ読んで「俺も行こう!」ってなって、旅に持っていって。どっかのゲストハウスの本棚でボロボロになってさ。 仲野:ネパールで各々の服にMPCって刺繡を入れたんですが、キャンジン・ゴンパのパサンのお父さんにその刺繡入りの帽子をあげたんです。それを誰かに見てほしいなぁ。 伊賀:そういう若干のエモさも含めて旅の記録だよね。この先も、旅の企画はずっとやっていきたい? 仲野:そうですね、できることなら。まだこれからですが、次はアメリカ編を刊行予定で。 伊賀:三人のバランスが完璧じゃん。太賀が巻き起こして、阿部ちゃんが準備して、上出くんが文章に残すっていう。 阿部:実は雲取山の登山には伊賀さんも登場しますよね。あれもたった二日間でしたが、めちゃくちゃいろいろとあったじゃないですか。 伊賀:あれもすげー面白かったよね~。記憶が濃いもんね。 阿部:旅って誰と行くのかが本当に大事ですよね。 仲野:大雪の雲取山、そしてアメリカ。それをまた上出さんが第二弾として書き起こしてくれて形になると思います。アメリカ編も、相当にヤバいんで、特に阿部ちゃんが(笑)。ネパールより滞在期間は長くて、アメリカには十日間くらいいたかな。相当面白いんで、楽しみにしていて欲しいな。 阿部:でも山登りって流行ってるんですけど、実際みんななかなか行かないんですよ。「私は無理だな」とか、「ネパールなんて、阿部ちゃんだから行けるんでしょ」って。そんなの関係ないよって言いたいですね。 仲野:そうだよ。阿部ちゃんが行けるんだから、誰でも行けるよ(笑)。 阿部:その通りなの。当たり前にできることをやるだけなの。今回太賀がフィルターになってみんなに届けてくれるんで。太賀が行けるなら誰でも行けるでしょって。そうやって広まっていくといいなって思います。 仲野:本当にそうだよね。ネパールも機内で寝てたら着くし、今回はプロフェッショナルな阿部ちゃん、上出さんという経験者と行けたのはあるけど、山の知識のない自分でもちょっと気をつけさえすれば、体力的に難しいことは何もなかったから。 伊賀:この本からその輪が広がっていったらいいよね。MPCとしては、行くのは山が多くなるんだろうけど。 仲野:そうですね。山と、ちょっと社会のことも見られたらって。いろいろと体験していきながら本にしていけたらいいなって。 伊賀:俺は初めて海外に行ったのは高校生くらいのときだったけど、行けば日本のことを確実に考えるよね。そのために外に出ていくようなもんじゃない。 仲野:知るために行くんですよね。外に行けばいろんな人がいて、それぞれに違う人生があるし、日本の中にいただけでは知り得ない人間の幅、人生の幅を知ることができるっていうのが経験としてすごくいいなって思っていて。それを知った上で日本に住むことで、より味わいを感じることができるっていうか。足るを知るというか。 伊賀:ここを出ていっても行くところなんてないじゃないか、っていうパサンの言葉もすごく深くて印象的だよね。こういう話がすごくスパイスとして効いてるし。 阿部:パサン、あんなラップできるんだなって。 仲野:みんなに見てほしいよ、俺とパサンのラップバトルを(笑)。 阿部:でも本当に、行けないところは意外とないんだって知ってほしい。一歩踏み出したり、インターネットでクリックしたりすればチケットは買えちゃうんで。行ってみたいんだけど、本当に行けるのかなってムズムズ思っている若い子にぜひ読んで欲しいですね。俺らはスポンサーをつけようと頑張っていろいろやったんですが、お金はほぼかかってない。航空券と山登り代くらいじゃんね。 仲野:山登り代とかないから(笑)。登るのにお金かからないから。 阿部:宿代か。すみません。でも学生でも意外と行けちゃうから。ムズムズしている人は頑張って行って欲しいですね。 伊賀:アップルモモってどんなに美味しいか確認したい! って理由でも全然いいよね。 仲野:アップルモモとの出会いもそうですけど、知らないものとの出会いは本当に楽しいし、別にどこでも構わないので、これを読んでちょっと旅に出たくなってくれたら、書を捨てて街に出て欲しいなって思います。個人的にはこの本が長く読んでもらえたらいいなって思っています。旅本のひとつのバイブルみたいになれたら最高だなって。 伊賀:こんなに爆笑しながら読める山岳紀行モノ他にないよ! 高野秀行さん本の感じとも違うし。山とか旅って普通はストイックな感じじゃん。「このザイルが切れたら……」とかさ(笑)。山だからってハードボイルドを気取ってなくて、かっこつけない脱力した抜けの良さがある。 仲野:そういう感じとは一線を画したものになってますよね。 阿部:見方を変えれば、意外と旅ってこんな感じなんじゃない? 紀行文ではかっこいいことみんな書いちゃうけど、面白いことは絶対にたくさんある。 仲野:だって海外に行けばなんにもできないんだもん。東京で、普段住んでる街で、なんでもできるような気になってるけど、いざ旅に出れば全然勝手が違う。それが楽しいわけなんだからさ。 (二〇二四年十月某日、「ネパリコ 駒沢店」にて)
仲野 太賀、阿部 裕介、伊賀 大介