<1勝にかける・カトガク、甲子園へ>/下 県独自大会1回戦敗退 苦難乗り越え本番へ /静岡
◇深まった仲間との信頼 清水庵原球場(静岡市清水区)から学校へと向かうバスは誰一人として口を開かず、気まずい沈黙が続いていた。「自分たちが甲子園に行ってよいのだろうか」。杉山尊内野手(3年)は同じ問いを反すうしながら唇をかみしめた。「あそこでなぜ打てなかったのだろう」。ゲームセットになった内野フライを何度も悔いていた。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 8月のセンバツ交流試合への出場が決まり、「甲子園に行くチーム」として、優勝を目指した県独自大会。開幕日の7月11日、強豪校の飛龍(沼津市)との1回戦に臨んだ。一回、勝又友則主将(3年)の適時打で1点を先制。二回に追加点を挙げたが、三回に1死満塁の好機を迎えたところで雨天によるノーゲームとなった。 12日に清水庵原球場で仕切り直しの一戦。前日と違い、1点を追う展開だ。「まだ1点。すぐに返そう」と声をかけあうベンチ。実は別の空気が漂っていた。「甲子園に出るチームとして勝たなければ」。プレッシャーが部員たちの体を縛る。杉山内野手も「自分で終わらせられない」との重圧に負け、消極的なスイングになった。 敗戦の翌日、練習後にミーティングがあった。「まだ甲子園がある。下を向いていても始まらない」と勝又主将が呼びかける。米山学監督も「落ち込んでいて何か変わるのか」と発破をかけた。県内の他校と異なり、悔しさを晴らす舞台がまだ残っていることを認識した部員たち。胸の中で闘志がふつふつと沸いていた。 飛龍との戦いで浮かび上がった課題は「ここ一番での打撃力」だ。最終回(七回)までに残塁が6。打線が好機を生かせず、2―3と1点差で敗れた。1人で六回を投げ切り、8奪三振のエース、肥沼竣投手(3年)を援護できなかった。弱点を克服するため、その後は追い込まれた状況を想定した打撃練習に徹底的に打ち込んだ。 8月12日にあるセンバツ交流試合まで1週間を切った7日、グラウンドで練習試合があった。相手は県独自大会で準優勝した浜松開誠館(浜松市)。新チームが始動し、1、2年が中心のチームだったが、7―0で圧勝した。好機に打線がつながり、肥沼投手を含めた投手陣も無失点で浜松開誠館の打線を抑えた。 勝又主将は練習試合後、「本当にいろいろなことがあった。けれど、困難を乗り越える度に、仲間との信頼関係が深まった」とこれまでを振り返り、流れる汗をぬぐった。部員だけでなく、周囲に支えられながら、野球ができていると実感もしたという。強い日差しで蒸し暑いグラウンドは、夏の甲子園をほうふつとさせた。 チームは11日早朝、バスで甲子園球場(兵庫県西宮市)に向けて出発。大会3日目の12日第2試合(午後0時40分~)で鹿児島城西(鹿児島県)と対戦する。目指すは1勝。新型コロナウイルスによる困難、仲間と乗り越えた試練、周りの人たちの支え……に対する思いを1度きりの戦いにぶつける。【深野麟之介】 ……………………………………………………………………………………………………… <登録メンバー> 背番号 氏名 学年 1 肥沼竣 (3) 2 雨宮快成 (2) 3 勝又友則 (3) 4 大村善将 (3) 5 杉山尊 (3) 6 太田圭哉 (1) 7 植田颯斗 (2) 8 佐野陸斗 (2) 9 杉本敏 (3) 10 岩間昂生 (2) 11 船橋知聖 (1) 12 飯塚健太 (2) 13 稲葉悠 (2) 14 野極友太朗 (3) 15 吉田光輝 (2) 16 宮崎新那 (2) 17 平尾勝多 (2) 18 内田歩希 (2) 19 杉本陽哉 (2) 20 大谷正和 (2) ※センバツに出場できない1年も参加可。ベンチ入りできる登録メンバーは通常の2人増の20人