“諸刃”の追加関税 トランプはなぜ強硬策を続けられる?
アメリカのトランプ大統領が、中国製品に対する第4弾の追加関税を9月から発動すると表明しました。さらに、中国の人民元相場が1ドル7元台まで下落したことを受け、アメリカは中国を「為替操作国」に認定しました。G20大阪サミットでの合意でいったんは落ち着いたかにみえた「米中貿易戦争」はここへ来て再び激しい応酬となりつつあります。 経済的な利益を優先するトランプ大統領は、“諸刃の剣”ともいえる関税政策になぜここまで積極的なのか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストが論考します。
9月から第4弾の追加関税
米連邦準備制度理事会(FRB)が10年半ぶりの利下げを決定した翌日の8月1日、トランプ大統領は追加関税第4弾の発動を表明し、9月1日から新たに3000億ドル相当の中国製品に対して10%の関税を課すとしました。これが実現すれば、中国からの輸入品のほぼ全てに輸入関税がかかることになります。トランプ氏が大統領に就任した直後の段階では「さすがに関税発動はないだろう」との見方が多数(含む筆者、そして恐らく中国当局も)でしたが、こうした見通しは甘かったと判断せざるを得ません。以下、本稿では米中貿易戦争を経済的な視点から考察したいと思います。 これまでの関税引き上げは、第1弾が340億ドル相当(2018年7月)、第2弾が160億ドル相当(2018年8月)、第3弾が2000億ドル相当(2018年9月、2019年5月)と3度にわたり実施され、ここに最終的に25%の税率が適用されました。対象品目は電子部品・デバイス、半導体、通信機器、自動車・同部品、鉄鋼など工業製品が多く、最終ユーザーは企業が中心でした。他方、第4弾の3000億ドル相当(19年9月実施予定)はスマートフォン、PC、ゲーム機、衣料品など消費財(米国の消費者が最終ユーザーになるもの)が4割を占め、これまでとやや性質が異なります。 これらの製品は米国の対中依存度が8割を超すため、米国の消費者にも大きな負担が生じます。それゆえ、関税の対象から外されてきたのですが、いよいよそこに手をつけた形です。