原田マハの最新作は〈板画家・棟方志功〉 ゴッホに憧れた弱視の画家と、彼を支えた妻の物語(レビュー)
宇野碧氏『繭の中の街』(双葉社)は、神戸を舞台にした短編集である。最初に収録された「エデンの102号室」の主人公・布珠は、異人館のチケット売り場でアルバイトをしている浪人生だ。ある日、閉館間際にやってきた不思議な空気感を持つ若者に惹かれる。一緒に時間を過ごすことに夢中になるが、彼の持つ秘密が次第に明らかになっていく。抑えられない恋心を知り、多くの人の命が失われてきた街の歴史に触れ、自分の中に生まれた感情を言葉にしようとする主人公の瑞々しい感性が印象的だ。 幻想的な物語からほろ苦い恋愛まで、色彩も感触も違う七編が収録されている。他者の夢の中に、次々潜入してきたような読後感だ。いくつもの引き出しを持つ著者の、今後の作品に期待したい。 [レビュアー]高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員) 都内書店にて文芸書を担当 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社
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