<中間選挙>共和党勝利でも何も変わらないアメリカ政治 上智大学教授・前嶋和弘
多数派の共和党の立法が進むのか?
共和党が上下両院で多数派を取ったといっても、実はこれで立法が一気に進むわけではありません。というのも、上院には議事妨害(フィリバスター)という特殊な制度があるためです。これをちらつかせることで、民主党側は共和党主導の法案をほぼ完璧に封じることができます。議事妨害を中止させるには60議席が必要ですが、まだ、結果が出ていないルイジアナ州(過半数の票を獲得できなかった場合、州法の規定で12月に再度決選投票)で共和党候補が勝ったとしても、共和党は60議席には達しません。 前述の最低賃金引き上げや富裕層増税、環境規制強化、移民法改革、医療保険改革はいずれも民主党には死活的な政策ですので、共和党側に部分的に譲ることは考えられますが、それでも、共和党の一部からすでに声が上がっている医療保険改革の完全中止などは、民主党が妥協できるはずがありません。そのため、民主党は議事妨害を利用して共和党の動きを阻止するはずです。 これまでは共和党は上院で少数派党でしたが、議事妨害を利用して、民主党主導の主要法案を葬ってきました。来年1月からは攻守逆になりますが、全く同じ状況になります。さらに、もし、共和党が民主党の一部をうまく切り崩し、両院で法案を通過させたとしても、オバマ大統領が拒否権を行使すれば、立法化できません。 つまり、議会の膠着状態が継続すると思われます。政治そのものが動かない状況は全く変わりません。 外交政策についても、どう動いていくのかは読みにくいところです。共和党主導の議会になっても、債務危機の際に成立した予算管理法の歳出自動削減条項(セクエストレーション)はまだ有効なので、軍事費削減傾向はすぐには変わらないはずです。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についても難しいところです。共和党には自由貿易推進派が多いとは言われていますが、農業州選出の議員も多数いるため、一枚岩ではないです。TPPを円滑に進めるためには大統領にTPA(貿易促進権限)を与えることが重要ですが、「惨敗した」オバマ大統領の権限を与えることには共和党内に大きな異論があります。
「動かない政治」に米国民うんざり
中間選挙の結果を受けて、オバマ大統領に対する責任論の高まりと共和党の祝勝ムードが当面は続くと思われますが、実際に選挙の結果がアメリカの政治を大きく変えるかは疑問です。共和党、民主党と共和党の対立激化でここ数年、主要法案がほとんど通っていない中、アメリカ国民の多くはうんざりしています。中間選挙の結果を経ても「動かない政治」が継続するとするなら、アメリカ国民の政治不信はさらに高まっていくと思われます。高まる政治不信が中間選挙の最大の影響であるとしたら、とても残念な気がします。