【ビル・ゲイツ】ITの新時代を拓き巨万の富を得た男の目指すものとは!?
若くしてマイクロソフト社を創業し、PC時代の礎を築き上げた天才、ビル・ゲイツ。退社後は巨万の富を元手に慈善事業の財団を設立し、世界の諸問題に立ち向かっている。あまり表舞台に姿を見せない彼を、モーリーはどう見ている!?
今回はビル・ゲイツの光と影というよりも、彼が目指したものに絞って語ります。彼の父親は弁護士でした。白人上流社会に生まれ、寄宿学校で英才教育を受け、親から経済力や教養、ビジネスマインドを受け継ぐ。アメリカにはこういう層が一定数います。三角形の頂点にいて、よほどのヘマをやらない限り、どんどん豊かさを更新していく。そういう仕組みがあるんですね。僕が通ったハーバード大学のルームメイトにも、ゲイツと似たような人がいました。理数系にめっぽう強く、ディベートや論文も完璧で、まさに神童でした。ところが、あることをきっかけに精神がダウンしてしまった。つまり、ビル・ゲイツ候補の天才はたくさんいて、それが少しずつふるいにかけられるんです。些細なことでつぶれていく人を僕もたくさん見ました。 ゲイツの場合、経歴はハーバード中退ですが、大きな仕事をするために辞めています。また、科学者やエンジニアによくあるのが、金儲けのことを考えず、のびのびと真理や技術を究めるという考え方。ゲイツはそこからも早々と離脱し、ビジネスを巨大化して、世界の隅々まで“ウィンドウズ”を浸透させることを考えました。全人類がこの技術を使ったら世界が変わる、と。僕も“ウィンドウズ”が出てきた頃のことを覚えていますが、ソフトウエアが物理層以上に価値をもつということが、今ひとつピンとこなかった。あの段階では、ゲイツのビジョンを理解できる人は限られていたし、競合相手もほとんどいませんでした。しばらくしてゲイツは経営から抜けます。その後もコンピューターは進化し続けましたが、結局“ウィンドウズ”を超える革新的なOSは出てきていないんですよね。 興味深いのは、後の世代であるザッカーバーグやマスクの場合、どちらかというと自分が儲かることが大事。それから、特にマスクは目立ちたがりで、なにをやっても彼が主役です。ゲイツの振るまいは対照的で、世界一の富豪にはなったけど、これ以上資産を増やしてどうするのかという葛藤があった。そして家庭生活が崩壊しそうだったこともあり、妻のメリンダと財団を作って、世界の本質的な問題を解決する方向にシフトします。 彼が目指したのは、いわゆるグローバルサウスで起きている貧困や健康などの問題について、システム全体を把握し、超国家的に取り組むということ。人類の何%かを救おうと、いろいろなことをやっています。でもその都度、大きな事件が立ち塞がるんですね。ナイジェリア北部のイスラム原理主義、ジンバブエの独裁政権……。実際に財団の人がワクチンを配りにいき、銃撃されたこともありました。国際社会の意志では、アフリカの貧困はなかなか解決しない。リターンがないから投資の機運も生まれない。人類史的な問題として継承された負の遺産に、ゲイツもぶち当たるんです。 彼自身が語っていますが、最適化の技術を革新させるのは彼の得意とするところです。それで問題全体を解決できるという楽観視、期待感がある。でも、そんな彼ですら、政治と貧困が絡み合った問題はなかなか進まない。もはや全く別種の、怪物的な問題になってしまっているからです。この世界には賢者が解決できない種類の問題もあるということが、壮大な社会実験でわかってしまった。 それでも、ゲイツが示したプロトタイプは意味のあることです。特に僕が期待しているのは、上下水道の普及とワクチン。ここが改善すると、世界の問題を解決はできなくても、緩和することはできる。この取り組みは本当に必要だと思います。彼を目指せる人はほとんど出てこないでしょう。でも、ビジネスを回しながら社会をよくしていくような社会的企業は目指せます。特にZ世代やそれに続く世代には受け継いでほしい。彼から学べることは多いはずです。