会社に壊されない生き方(8) ── 辞めようとしているあなたは悪くない
会社で働くなかで、死を考えたり、体を壊すところまで追いつめられるくらいなら、会社を辞めよう。それが「会社に壊されない生き方」だ。しかし、会社を辞めたあと、どうやって生計を立てていくかが問題で、そのヒントをこの連載で探ってきた。生涯学習論が専門で、東京大学大学院教育学研究科の牧野篤教授は「企業にいれば安泰だった時代は終わった」と指摘し、複数の収入源を持つ多様な生き方を提案する。
自罰的に考えてしまう人たち
過重労働に苦しんだりリストラされるのは、自分に実力がなく努力も足りないからだ、と考えてしまう会社員は結構多いのではないか。2000年代前半、牧野教授が名古屋大学で教鞭をとっていた時代に、社会人も参加できるゼミを開いたところ、苦しんだ末に会社を辞めた人が複数やってきたという。 元大手広告代理店勤務の50代男性。とある自動車メーカーのCM制作の仕事にたずさわっていたが、調べれば調べるほど、このようなひどい自動車をCMで宣伝してはいけないのではないかと思うようになった。しかし、CMを作らねば自分の地位、家族、部下はどうなるのか。「消費者なんかどうでもいい、儲かればいいじゃないか」と割り切れる人間は出世していくが、この男性は自らの責務と良心の板挟みになって眠れなくなり、ついにはうつ病を発症して退職してしまった。 元健康食品メーカー勤務の30代女性は、業績が落ちるなか、会社から「消費者を人と思うな」という教育を受けた。販売に努めた商品は、健康食品とは呼び難い低質な代物だった。これを売るべきなのか、と悩んだ彼女は眠れなくなり、会社を辞めてしまった。 「『リストラされたのは求められる人材になれなかったからだ』とか『うつになって会社を辞めてしまって家族に申し訳ない、あそこでうまく立ち回ればよかったんじゃないか』など、自分が悪いと思っている人が多かったのです」と「自罰的」になっていた人たちが多かったと振り返る。