会社に壊されない生き方(8) ── 辞めようとしているあなたは悪くない
あらゆることが「自己責任」にされてしまう時代
牧野教授は、彼らが会社で苦しめられた背景に、社会の構造的な変化があると見ている。「昔は、みんな同じ方向を向いて一生懸命頑張れば、みんな生活が豊かになり同じような消費生活を送れる、という一億総中流意識がありました。その中で、競争の苦しさはあるが、一生懸命やることで向上するうれしさがあったり、自分も一生懸命頑張った『みんな』の一員なのだと思える時代でした」。 ところが、1980年代半ばごろ以降、少子高齢化とともに市場が飽和してモノが売れなくなる。バブル崩壊や平成不況があり、経済のグローバル化も進むなか、会社に勤めてさえいれば生活が安定する、という社会ではもはやなくなった。非正規雇用の割合も増えるなどの状況にあって、あらゆることが「自己責任」にされてしまっていると牧野教授は分析する。 「社会構造が変化してこうなったのだからあなた方に責任はありませんよ、と伝えると、ほとんどの方から『気が楽になりました』と言われます。難しいかもしれませんが、目先の仕事で手一杯であっても、もう少しだけ余裕が持てて、自分のおかれた場所が見えてくれば、また違った人生の選択肢が見えてくる可能性もあります」。
多能工になろう
「企業にいれば安泰だった時代なら『馬鹿な話』と一蹴されるかもしれませんが、今は大企業でもつぶれてしまうかもしれない時代です。1か0か、ではなくて、1と0のあいだに0.xがいくつかある生活をしたほうが保証があって良いのではないかと思うのです」。 著書『農的な生活がおもしろい 年収200万円で豊かに暮らす!』(さくら舎)で、牧野教授が選択肢の1つとしてあげるのが、「多能工」という生き方。会社員が、営業なら営業、と分業化が進んだ「単能工」なのに対し、多能工は「小さな町に見つけた自分の大きな役割」(連載第4回)で紹介した月3万円ビジネスや、「小さな仕事『ナリワイ』組み合わせ生きる」(第7回)のナリワイのように、いろいろな仕事を持つ。 あくまでも、多能工という生き方は選択肢の1つであり、会社で苦しむすべての人々への処方箋ではないと牧野教授は釘をさす。会社に行けば、仕事があり、給与ももらえるなど気が楽な面もあるが、多能工の場合は、経営面をはじめさまざまな方面に考えをめぐらせる必要があるからだ。 逆にいえば、会社もまた、生計を立てる上で選択肢の1つでしかないと言える。残っても良いし、逃げたって構わない。生きていく方法は、会社の外にもある。連載に登場した人々が、それを証明している。連載第2回に登場していただいた高坂勝さんの言葉で締めくくりたい。 > 結局、他人の評価のなかで生きているだけで、 > あなたの人生が別に否定されているわけではない。 > まずは他人の評価を気にしないようにしてほしい。 > その上で「やってられないなぁ」というところまで行っちゃったら、 > 会社やめちゃいましょう。 会社員時代より幸せ「ダウンシフト」という選択 (取材・文:具志堅浩二)