「来年は無事農業を」願う あえのこと、田の神迎え 奥能登各地、収穫に感謝
●輪島・三井、復興拠点でボランティア見守る 支援で届いたリンゴ供え 国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産の農耕儀礼「あえのこと」が5日、奥能登各地で営まれた。元日の能登半島地震と9月の奥能登豪雨で実施を見送る農家が相次ぐ中、例年通りに行った地域では田の神様を迎え入れ、料理と風呂でもてなした。「来年こそは無事に農業ができますよう、神様どうかお助けください」。復旧のボランティアも見守る中、住民は傷ついた農地の復旧と耕作の再開を願った。 【写真】田の神様を家に招き入れ、ごちそうを振る舞う吉村さん=能登町国重 あえのことは田の神様に感謝を伝え、豊作を願う儀礼で、毎年12月5日に神様を家に招き入れて冬の間休んでもらい、翌年2月9日に送り出す。 輪島市三井町小泉では地震で損壊した建物に代え、災害ボランティアが復興拠点とする古民家「茅葺庵(かやぶきあん)」に神様を招き入れた。 接待する「ゴテ」役を務めた三井公民館の小山栄館長(74)が、ボランティアが設けた仮設風呂などについて説明し、支援物資として長野県から届いたリンゴを供えた。小山館長は「大事な祭りを行えて最高」と安堵(あんど)の表情を見せた。 同市白米(しろよね)町の公務員川口喜仙(よしのり)さん(60)は国名勝「白米千枚田」近くの棚田が被害を受けた。田の神様を迎え「今年は大変な年でしたが、何とか耕作できました」と感謝を伝えた。 ●能登、1軒離農 集落合同で伝統を守る能登町国重(くにしげ)では吉村安弘さん(81)方で行われ、木の枝に宿した神様に山海の幸を振る舞った。集落では4軒が約3ヘクタールで稲作を行っていたが、地震で地割れが起きたため1軒が離農。田植えまでに修理したが、豪雨により一部で収穫を断念した。礼服姿の吉村さんは田の神様に「震災にも関わらず米が収穫できたことに感謝しています」と頭を下げた。 同町時長では「山口みどりの里保存会」の約30人が行った。紋付き袴姿で歓待した吉延孝治さん(70)は田の神様に「住民は大変な思いをした。来年はこんなことが無いようにお願いします」と声を掛けた。 ●珠洲、中止多く あえのことが盛んな珠洲市若山町では取りやめた家が目立った。それでも同町二子の奥秀樹さん(74)は準半壊した自宅の風呂を沸かし、神棚にタイや妻静子さん(72)が作った煮しめをささげた。地震で耕作面積は減ったが、奥さんは「家族9人全員が無事だったことにありがとうと伝えたい」と手を合わせた。 ●穴水は簡略化 穴水町で唯一、あえのことを受け継ぐ藤巻の森川祐征さん(85)は床の間に料理を供えるなど簡略化して行った。森川さんは「来年こそは例年通りに再開したい」と前を向いた。