インフレ対策が米大統領選を大きく左右するか
トランプ氏の経済政策は物価を押し上げてしまう
他方トランプ氏は、石油を「掘って、掘って、掘りまくれ」というスローガンを掲げている。石油産出量が増えれば、エネルギー価格が低下するという主張だ。しかし実際には、石油産業がどれだけ産出量を増やすのかは、原油の国際市況次第で決まる傾向が強い。価格が上がるから産出量を増やすのである。また、米国の原油産出量の増加だけでは、エネルギー価格を下げる効果は限られよう。 さらに、トランプ氏が掲げる関税引き上げと移民規制強化によって輸入コストと賃金に上昇圧力がかかり、むしろ物価上昇率は高まることになる可能性が高い。ドイツ銀行の試算によると、トランプ氏が提案する中国からの輸入品に対する60%の追加関税と、その他すべての国からの輸入品に対する10%の追加関税によって、米国の消費者物価が1.4~1.7%上昇する。トランプ氏は14日に、すべての輸入品に「10~20%」の関税を課すと述べ、さらに関税率を上げる考えを示している。
ラストベルトの激戦州の住民は経済的実利を重視か
トランプ氏が掲げる経済政策が、物価上昇率の低下を妨げることが広く理解されていけば、物価環境はハリス氏にとって逆風とはならず、むしろ順風に変わる可能性もあるだろう。 選挙戦の行方を左右するラストベルトの激戦州では、白人労働者などの住民は、民主党が重視する人権といった理念的なものよりも、生活環境の改善といった経済的実利をより重視する傾向があるのではないか。そのため、バイデン大統領の選挙戦離脱と物価上昇率の低下という2つの逆風緩和の下、ハリス氏が物価安定に向けた経済政策をアピールできれば、大統領選挙での勝利を一歩引き寄せることができるのではないか。 (参考資料) "Why Inflation Might Not Win the Election for Trump(トランプ氏、インフレ批判では勝てない理由)", Wall Street Journal, August 16, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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