山田洋次監督『男はつらいよ』55周年に感謝「お客さんが笑ってくれることがものすごく幸せ」
「『男はつらいよ』55周年記念 ファン大感謝祭イベント」が8月27日、MOVIX亀有にて行われ、山田洋次監督、『男はつらいよ』ファンのお笑いコンビ「浅草キッド」の玉袋筋太郎、「ミキ」の昴生、「くるまや」の三平役で出演する俳優の北山雅康が寅さんトークに花を咲かせた。 【写真】美術スタッフ渾身の「寅次郎の相合い傘」を寅さんルックの女の子に手渡す山田監督 1969(昭和44)年、『男はつらいよ』第1作が劇場公開されてからちょうど55周年を迎える記念日に開催された同イベント。『男はつらいよ』の魅力を「仕事とか人間関係とか、人生は順風満帆にいかないことの連続。その中で自分の気持ちがおかしくなった時、チューニングを合わせるために『男はつらいよ』を見て、抜群な状態に持っていくようにしています」と玉袋。 コロナ禍で全作一気見したという昴生は「最初は寅さんってすごいな、昔はこんな人がいたんやろなと思ったんですけど、途中で “何やねんこいつ” とメッチャ嫌いになって。好きになったり嫌いになったり、完全に寅さんの家族になったつもりで見ていた。僕もお兄ちゃんなんですけど、お兄ちゃんってきっちりしちゃうので、自由に生きている寅さんがうらやましい。ホンマは寅さんみたいな性格になりたいのにな、とずっと憧れの目で見ていたのかもしれないですね」と力説。 山田監督は寅さんのキャラクターについて「渥美さんが演じた人物の魅力は、ひと言でいうと自由ってことだと思うんです。もちろん行動のうえでも自由なんだけど、考え方が何にも拘束されてない。ハチャメチャでメチャクチャで、馬鹿馬鹿しくもあるんだけど、それらを含めて常に自分のオリジナルな発想で生きている。僕たちは日常生活でも仕事でも、随分いろんなことに縛られて生きていて、一番大事な考え方が拘束されている。あの男は実に自由なんですよね」と語った。
この55年間での変化を問われ「この国の人たちはもっと元気だった気がするの。寅さんは商店街の中で啖呵売をやるんだけど、55年前は魚屋さんとか八百屋さんとかお肉屋さんとか、小さいお店がいっぱいあって、みんなちゃんと商売が成り立ってたんですよ。それが今は小さい商店街がほとんどなくなってしまって、ましてや寅さんのようなちょっとインチキくさい商売はまったく成り立たない」と山田監督。 「今はコンビニで買い物しても、お金を払うと “こっちに入れてください” って機械に入れて、ボタンを押さなきゃいけないじゃない。僕なんか老人だからオロオロしながらボタンを押して、あなたがちゃんとお釣りを出してくれればいいじゃないかと思って。“どうもありがとう” とか “元気?” とか人間同士のやりとりもなくなって、どんどん味気なくなっていく。通信販売になるとお店自体がなくなるでしょう。僕たち日本人は本当に幸せな方向に向かっているのかな、ということは感じています」と訴えた。 玉袋が「私は学校教育に『男はつらいよ』ってずっと言ってます。昔、学校でみんなで映画とか見たじゃない? そういう時に『男はつらいよ』を一発注入しといたほうがいいと思うんだよね。その頃は分からなくても年取ってきて分かってくる」と持論を述べると「寅さんの間に『家族』(1970)っていうシリアスな映画を作って、函館で上映会をやった時に年配の高校の先生がいらしたの。僕が “先生、今の高校生はこういう映画を見てくれますかね” って言ったら、その先生に “残念だけど、今の子どもたちはこういう真面目な映画は見ない。見るのはギャング映画か寅さんくらいのものでしょう” って言われて(笑)。まさか寅さんも僕の映画だとは言えないから “困ったもんですね” とか答えてね」というエピソードを明かした。