なりすましの偽造パスポートは「中国語でありえない発音表記」「外国籍なのに和暦」...渋谷富ヶ谷の6.5億不動産詐欺を招いた弁護士の単純すぎるミスは「不注意」か「確信犯」か
不注意か、確信犯か
今回の取引に使われた偽造パスポートで、呉の生年が1924(大正13)年となっていたにもかかわらず、印鑑証明では大正15年生まれになっていた一件は、前にも触れた。印鑑証明については取引当日の2015年9月10日より前に写しを送付させ、そのうえでニセの呉が登場した。なりすまし役のその老人は、地道たちの前で意気揚々とそれらの偽造書類を披露したわけだ。 弁護士でありながら、そんなことにも気づかず、さらに公証役場で本人確認させたのは、いわば確信犯ではないのか。土地の取引窓口である諸永総合法律事務所の所長である諸永や事務員の吉永は、とうぜん書類を事前に確認しているはずである。明白な間違いに気付いていてなお、取引を進めたのは、弁護士として明らかな過失がある。それが、諸永に損害賠償を求める地道たちの当然の主張だ。 騙されて振り込んでしまった6億5000万円の現金を取り戻したい被害者にとっては、行方をくらませた山口やオンライフの社長を探すより、取引にかかわった目の前の弁護士に弁償させることが、近道となる。それもあり、地道たちは民事訴訟に踏み切った。 むろん、彼らも地面師たちとグルだったのではないか、という疑いは濃いが、少なくとも弁護士としての過失は明らかだろう。ビジネスとして損害を受けている以上、まずそこを突くのは当たり前かもしれない。 しかし諸永や吉永たちは、実行犯である地面師たちのつくった偽造書類のお粗末さにうっかり気付かなかった。その可能性も捨てきれない。地面師たちは極めて自然体で嘘をつく。半面、杜撰なところもあり、実はうっかりミスもめずらしくないのである。ニセの呉が間違った書類を出したとき、真っ青になったのは誰だったか。 ちなみに、地道サイドの司法書士もまた、「なぜ台湾人なのに生年月日を西暦でなく、大正と表記しているのか」とそこに気づいた。だが、結局、パスポートとの生年月日の違いを含め、印鑑証明の入力ミスによる単なる錯誤だという説明を受け、やり過ごしてしまった。信じられない事態かもしれないが、現実にそれが起きているのである。 『「全く覚えていません」認知症の“所長”と弁護士資格を剥奪された“事務員”は裁判で罪を擦り付け合う...渋谷富ヶ谷6.5億地面師事件の舞台となった弁護士事務所の所長に課された「前代未聞の賠償」』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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