「美味しい部分」は大手メーカーへ ヒーレー・フォード・フィエスタ(2) 1台限りのホットハッチ
ベースのフィエスタの優秀ぶりを垣間見せる
ヒーレー・フォード・フィエスタの回頭性は鋭く、路面の乱れによる影響は予想しやすい。アクセルオンで操舵に影響が出る、トルクステアも限定的だ。 【写真】ゴルフGTIの隠れた対抗馬 ヒーレー・フォード・フィエスタ 100にジェンセン 現行フォーカスも (151枚) ロータリー交差点で加速させると、内側のフロントタイヤが暴れようとする。しかし、アクセルペダルを急に緩めても、ラインはとっさには変化しない。 シフトレバーは、2速と3速のストロークが長い。ゲートの感触も少し曖昧。ギア比が短いから、3速と4速が主役になる。高い速度域でも扱いやすく、過度に集中する必要はない。ベースになった初代フォード・フィエスタの、優秀ぶりを垣間見せる。 ブレーキは、ちょっと心もとない。フロントは、小さな1ポッドキャリパーが8.7インチのディスクを挟む。制動力を増すサーボはなし。リアは7.0インチ・ドラムのまま。現代の感覚でペダルを踏むと、充分な減速は引き出せない。 とはいえ、車重は853kgだけ。しっかり力をかければ、不満なく機能する。同時期のフォード・エスコートも、似たようなものだった。 筆者が納得できないのは、ショート過ぎるギア比。テスト走行での加速力や柔軟性の印象を鮮明にするため、あえて選ばれた可能性はあるだろう。量産化されていたら、変更されていたに違いない。80km/hで走るのに、3000rpm近くも回すことになる。
初代VWゴルフ GTIと同等の動力性能
このヒーレー・フォード・フィエスタへ試乗した当時の自動車雑誌、ロード&トラックは、6000rpmで173km/hに達したと記録を残している。0-96km/h加速は9.6秒で、オリジナルの初代フォルクスワーゲン・ゴルフ GTIと同等の動力性能を獲得していた。 フォルクスワーゲン・シロッコより操縦性に優れ、オリジナルのフィエスタより速く楽しいとも評価されている。ところが、つい最近までこの存在は忘れられていた。 ヒーレー・フォード・フィエスタは1979年に完成すると、モーターショー出展のためアメリカへ運ばれる。グレートブリテン島を旅立った時点でフロントグリルを飾っていたヒーレーのエンブレムは、直後にフォードのブルーオーバルへ交換されたらしい。 モーターショーで撮影された写真は発見されていないが、先述のとおりロード&トラック誌が1979年8月に試乗。ところが、排気ガス試験に合格できず、ナンバー登録はできていない。以降は、フォードの倉庫へ保管された。 フィエスタのアメリカでの売れ行きは改善しないまま、3年後にヒーレーのコレクター、ビル・ウッド氏へ売却。さらにオーナーが2度変わり、オランダ(ネザーランド)のヒーレー博物館へ収蔵される。 2014年に、正体不明のままオークションへ出品。落札には至らなかったものの、ヒーレー・マニアのウォーレン・ケネディ氏が、コレクションを完成させるため購入を決める。彼は1946年式のヒーレー・エリオットという、レアなサルーンも所有している。