「出る杭は打たれる」日本特有の風潮に「クソくらえ!」──“同調圧力に負けたくない”思いを込めて『レナティス』を作った若手ゲームクリエイターが語る“自分の個性を表現するため”貫いた流儀とは
「みんなこうしてるんだから……」。 髪型、服装、趣味など、周りの様子と比較され、同調を求められた経験は誰しもあるのではないだろうか。そんなとき、意識的にしろ無意識にしろ、周りに合わせてしまう人は多いと思う。 『REYNATIS/レナティス』画像・動画ギャラリー 同調圧力や「出る杭は打たれる」といった、ある意味、日本文化特有の風潮。学生時代はもちろん、会社に所属してからも暗黙のうちに広まっている目に見えない何か。 次世代のゲームクリエイターにスポットを当てる連載「新世代に訊く」第6回は、そんな同調圧力に負けたくない思いを胸に「周りからどんな目で見られたとしても、自分の個性を表現したい」と語る、若きゲームクリエイターに話を伺った。 その若きゲームクリエイターの名は、フリュー株式会社に所属する礒部たくみ氏。 今年で32歳になる礒部氏は、入社1年目に100本以上の企画書を作り、2年目からオリジナルタイトルのディレクションを担当。そして、礒部氏がディレクターのみならず、企画原案からプロデュースまで担当したのが、2024年7月25日に発売される『REYNATIS/レナティス』(以下、『レナティス』だ。 そんな本作は、「個性は出した方がいい」「同調圧力に屈せず、好きにやろう」という自らの思いをテーマとして込めた新作だという。 実際に『レナティス』の主人公のひとり、「霧積真凛(きりづみ まりん)」は、魔法使いであることを理由にあらゆる抑圧を受けた中で育った結果、「誰にも負けない最強の魔法使い」……言うなれば「出すぎた杭」になるため、戦うという設定になっている。 礒部氏も過去、美術の授業で奇抜な作品を作ったら壊されたり、表現の一環として髪を派手な色に染めた結果、周りから異物として見なされるという「出る杭」として打たれる経験を受けてきたという。 それでもなお、自らの個性を表現し、ゲームを作り続けているのが礒部氏でもある。そんな氏がゲームクリエイターを志し、自ら作り上げたゲームにどんな思いを込めたのか。負けず嫌いの若手クリエイターが、自分の個性を表現するために貫く流儀に迫った。 聞き手/豊田恵吾 編集/竹中プレジデント 撮影/佐々木秀二 ■入社1年目で106本の企画書を作り、2年目からはオリジナルタイトルのディレクションを担当することに ──『聖塔神記 トリニティトリガー』(以下、『トリニティトリガー』)、『レナティス』と、2作のオリジナルタイトルでディレクター【※】を務めている礒部さんですが、いまおいくつなのでしょうか? 礒部たくみ氏(以下、礒部氏): 今年で32歳になります。 ──その年齢で2作のオリジナルタイトルを作っているというのは、ゲーム業界では珍しいケースですよね。もともと、フリューにはどのようなきっかけから入社されたのでしょうか? 礒部氏: フリューでは若いうちからオリジナルタイトルを任せてもらえると、会社説明会に参加した際に知ったのが大きいです。 その説明会に『カリギュラ』シリーズを手がけられた山中拓也さんがいらっしゃって、「ここ(フリュー)ならオリジナルタイトルを早く手掛けられる」と言ってくれまして(笑)。 ──なるほど、当初から若くしてディレクターを務めることを意識されて会社を選ばれたのですね。職種としてはプランナーとして入られたんでしょうか。 礒部氏: 企画のアシスタントディレクターだったと思います。 入ってすぐのころは指導してくれる方がいたんですが、3ヵ月くらいでいなくなってしまって(笑)。 急遽、すでに動いていた版権タイトルのお手伝いをしつつ、空いた時間を無理やり作って企画書を作りまくっていました。 1年間で……106本ぐらいでしょうか。 ──ひゃ、106本も!? 礒部氏: ええ(笑)。1年目は、版権タイトルのお手伝いと企画書づくりをしていまいた。もちろん、ただ流れるまま書いていったわけではなく、すべての企画にフィードバックをもらい、企画力を徹底的に伸ばしていきました。 結果として、企画力や提案力は伸びたと思いますし、新規タイトルの企画を出す際に、1年目に作った企画書から設定やシステムが使われたりもして、部分部分ですがその後のタイトルにも活かされています。 『レナティス』に関しても、その106本の企画書の中に原型みたいなものがあります。 ──まるで100本ノックのように企画書作りに明け暮れたのは「自分のゲームを作りたい」という思いが原動力だったんですか? 礒部氏: はい。入社1年目はゲーム作りのことが何もわかりませんし、あるとすれば熱量くらいのものでした。 「オリジナルタイトルを作りたい」という思いでフリューに入りましたので、それを叶えるためにまずは企画力を徹底的に伸ばす必要があるなと。そして、その熱量とやる気を示す意味でも、集中して取り組んでいきました。 ──ひたすら企画書を作り続けた入社1年目を経て、どのようにオリジナルタイトルを手がけられるようになっていくのでしょうか。 礒部氏: ディレクションを担当した『トリニティトリガー』は入社2年目からでした。 ──え? 入社2年目からオリジナルタイトルのディレクターに抜擢されたのですか? 礒部氏: 少し特殊なケースでして……。フリューでは版権タイトルを複数手がけているのですが、僕はそちらの開発にはお手伝い以外で深く関わることはなく、オリジナルタイトルを担当することになったんです。それが『トリニティトリガー』でした。 このときに「ディレクターをするためにプロデューサーと兼任したほうがいい」と強く感じたんです。 ──と言いますと? 礒部氏: もちろん、ディレクションを担当する立場でも、開発中に意見を出すことはできます。ただ、「どこにお金をかけるか、かけないか」の予算まわりの取捨選択や、世界観やターゲット層などの設定は、すでに決められた状態なんです。 プロデューサーと自分で意見が割れたときには、上司であるプロデューサーの意見が優先され、自分の意見が通らないことがほとんどでした。それで大喧嘩したこともあります(笑)。もどかしい気持ちになることが多かったんですね。 その体験を経て、自分で予算やスケジュールもコントロールできるプロデューサーという立場も兼任すれば、「ゲームとしてのおもしろさ」を作るに当たってのディレクションもしやすいという考えが強くなっていきました。 ■「出る杭は打たれる」という日本特有の文化に対して「クソくらえ!」という思いを込めて ──自身がディレクターとプロデューサーを兼任して手がけられたのが『レナティス』になるわけですが、作り上げるうえで骨子としたのはどんなところなのですか? 礒部氏: 『レナティス』では「出る杭は打たれる」という日本特有の文化に対して「クソくらえ!」っていうテーマ性を感じてほしいと思って作りました。 ──それは礒部さん自身が普段から「出る杭は打たれる」という経験をされているからなのでしょうか。 礒部氏: ……常日頃から感じていますね。たとえば、社会人になってからですと、髪を青に染めたときに周りから嫌な顔をされたり、異端の目で見られたりしました。ネイルをしていることも同様ですね。 あと、小中学校のころですが、美術の授業を受けていたときに、自分自身がおもしろいと思ったもの、奇抜なものを作ったりすると壊されたり、隠されたりすることを頻繁に受けていました。 同調圧力がすごいですよね。僕自身は「何も悪いことはしないんだから、堂々としていていいじゃん」って思っている人間で、(髪の色を指しつつ)こういう感じなんです。 ──たしかに、ピンクの髪色のゲームディレクターは礒部さんだけだと思います(笑)。 礒部氏: ただ、周りとは違うことをしにくい気持ちもわかるんです。自分もフリューに入社して間もないころは黒髪に染めていました。 けど、それってすごくもったいないなと。誰にも迷惑をかけないなら、自分のやりたいことを自分の表現としてやればいいと思うんですよね。 ──ただ、義務教育を受けている時期は、それをしたくてもできないみたいなところがありますよね。 礒部氏: それについては就職活動をしているときに思ったんですけど……義務教育って要は個性を否定する教育じゃないですか。 みんなで同じスタートラインに立って、平等に生活していくのが当たり前みたいになっている。けど、社会人になった途端、「人とは何が違いますか? 何ができますか?」って聞かれる。そんな矛盾を言うのだったら「最初から個性を出させろよ」って思います。 ──そういった同調圧力に対する怒りみたいなものが、礒部さんのクリエイティブの源泉になっているのでしょうか。ルサンチマンと言いますか……。 礒部氏: 「怒り」もあるかもしれませんが、僕自身が負けず嫌いなんです。 さきほどの1年間で企画書を106本を書いた話も、もともと上司から「過去に100本作れた人はいない」と言われて、「だったら自分がやってやる!」という気持ちで臨んだので。 ほかの人から変な目で見られたのをきっかけに、自分の個性を否定してしまうのは、同調圧力に屈して負けた気分がして嫌なんですよね。それならば、周りからどんな目で見られようが、自分を表現していきたいと思うんです。 ■今の自分があるのは『キングダムハーツ』があったから ──幼いころからゲームはよく遊んでいたんでしょうか? 礒部氏: いえ、小さいころはほとんど遊ばせてもらえませんでした。 当時は「目が悪くなる」、「勉強をしなくなる」など、ゲームに対するネガティブなイメージが強い時代だったこともあり、ゲーム機本体やソフトはなかなか買ってもらえなかったんです。 ──物を作るのが好きな子どもだったんですか? 礒部氏: 「何かを作る」というのは小さいころから好きでした。ですので、ゲームを買ってもらえないことに不満はなかったんです。LEGOブロックのような知育玩具は買ってもらえたので、LEGOブロックで何かを作ったり、様々な素材で、いろいろなものを作ることに夢中になっていましたね。 ──では幼少期はほとんどゲームに触れず? 礒部氏: そうですね。ゲームが解禁されてからも1日30分までという制限がありましたし、ゲーム機もロクヨン(ニンテンドウ64)くらいしか持っていませんでした。 ──現在の自分にもっとも影響を与えたゲームというと、どのタイトルになるのでしょう。 礒部氏: いまの自分があるのは『キングダムハーツ』があったからだと思っています。 初めてがっつり遊んだロクヨン(ニンテンドウ64)の『スーパーマリオ64』や、初めて買ってもらった携帯ゲーム機のDSのゲームにも思い入れはあるのですが、いまの自分が形成されている要因として影響が大きいのは、やっぱり『キングダムハーツ』となります。 ── 『キングダムハーツ』はいつごろプレイされたんですか? 礒部氏: 小学校高学年か中学生くらいだったかと思います。友人宅で友達がプレイしているのを見たのが、『キングダムハーツ』を知ったきっかけでした。 もともとディズニーが大好き、いわゆるDヲタ(ディズニーオタク)だったということもあり、その後自分でソフトを買いました。そのころには親からの躾も緩み、ある程度はゲームを遊べるようになっていたので。 ──『キングダムハーツ』のどのあたりが響いたのでしょうか。 礒部氏: アクションゲームって操作の待ち時間が少ない分、退屈しないじゃないですか。そこがベースのひとつとして、シンプルに楽しいと感じたんだと思います。 あとは、暗い世界が徐々に明るく広がっていくストーリーですね。1作目はまだストーリーがそこまで難解ではなく、ジャスミンやアリエルといったディズニープリンセスたちを助けていくという明確な目標が開示され、物語が展開していく作りでした。物語を楽しむことを重点的に楽しんでいた記憶があります。 ──礒部さんは『キングダムハーツ』を手がけられた野村哲也さんを憧れの人と公言されていますが、当時から野村さんのことはご存じだったんですか? 礒部氏: いえ、当時は存じていませんでした。 『キングダムハーツ』からいろいろ調べて、スクウェア・エニックスさんや野村さんのことを知りました。そこから『ファイナルファンタジー』を知って遊ぶようになったんです。 ──『キングダムハーツ』から入って、そこから野村さんが以前に手がけられたタイトルも含めて、「野村哲也作品」に夢中になっていったと。 礒部氏: はい、野村さんの作品はすべてプレイしています。 野村さんの作品は「現実の世界にファンタジーがある」という特徴があるんですが、そこで描かれる「光と闇」というテーマ性にとても魅力を感じました。 題材としてはシンプルでわかりやすいのですが、そこから複雑な物語を作り上げているところが自分の性癖にドンピシャで刺さった感じです。もちろん、世界観やビジュアルをはじめ、全部が大好きなんですけど一番はそこかなと思います。 ■ゲームクリエイターを志して情報系の大学へ入るもプログラムに面白さを見出せなかった ──『キングダムハーツ』に心を奪われた少年時代を経て、明確にゲームクリエイターを目指そうと考え出したのはいつくらいからなのでしょうか。 礒部氏: ゲームクリエイターになりたいという思いは、高校生のときから持っていました。 さきほどお話ししたように、小さいころから「物を作る」のが好きだったんです。じつは母がデザイナーでして、絵を描いたり、デッサンする様子を間近で見ていたこともあって、幼少期はデザイナーか漫画家になりたいという思いがありました。 そこに「ゲーム」が入ってきて、自身の将来像と合体し、ゲームクリエイターを志すようになりました。 ──デザイナーでもなく漫画家でもなく、最終的にゲームクリエイターの道を選んだのは? 礒部氏: たとえば、映画や漫画などは見るだけ、読むだけなんですよね。でも、ゲームって自分が操作することで反応が変わったりするインタラクティブ(双方向)性がある。 それがすごいなって思うようになって、徐々に自分でもそのおもしろさを生み出して、みんなに体験してもらいたいという気持ちになっていったんです。 ──ゲームクリエイターを志すようになったことで、大学は情報工学科を選ばれたのですか? 礒部氏: 山口県で生まれ育ったので、高校卒業後、山口大学の工学部知能情報工学科に入学しました。 プログラミングに関しては、専門学校以上に専門的な知識を学べると考えていましたし、さらに大学院まで行けば、技術力も身につく。あとは、ゲーム業界に入るとしても、ゲーム以外の知識もあったほうが絶対的に強いと思ったので、大学一択でした。 ──情報工学科ということは、大学在学中はプログラミングを勉強されていたのでしょうか? 礒部氏: そうですね、情報系でしたのでC言語、C++、Javaといったプログラム言語全般を勉強していたんですけど……文字を打つことばかりで「……なにがおもしろいんだ?」ってなってしまったんです(笑)。 ──それはどの部分がおもしろくない、自分には合わないと感じられたんですか? 礒部氏: 理由はいくつかあります。ひとつは、普通の大学だったのでゲームをテーマにしていない研究としてのプログラミングを学ぶものだったこと。興味のない分野でプログラミングを学ぶことは、モチベーション維持が困難でした。 もうひとつは、プログラミング言語を学ぶにあたって、C言語なら「if文」や「ポインタ」などの定義や構造体を覚えるんですけど、それが、ゲームにどのように活かされているのかが、具体的にイメージできませんでした。今思えば、自分で学んでいけばよかったのですが。 ──プログラムが好きな方って、ソースコードの美しさだったり、演算の速さだったりを追求する方が多い印象を持っているのですが、礒部さんはそういうところに魅力を感じなかったんですね。 礒部氏: まったく感じなかったです(笑)。とはいえ、おもしろさを見出せなかったことを知れただけでも学びとしては大きかったです。それもあって、プログラマーを目指す就職活動もしませんでした。 ただ、おもしろさを見出せなくても、コードを書いてきてはいるので、プログラミング的な考え方やアルゴリズムなどの基礎知識はもちろんあります。なので、ゲームの開発会社さんとお話する際には役立ちましたし、プログラムをまったく学んでいない方とは異なる強みにはなったのかなと思います。 ──大学卒業後、フリューへ入社されたのですか? 礒部氏: 大学卒業後は地元の大学院へ進学しました。就活でフリューを受けて入社が決まり東京に出てきた、という経歴です。 ■作品をプレイしてくれたユーザーに一番伝えたいのは「個性は出したほういいんだよ」ということ ──『レナティス』はプロデューサーを兼任しての初タイトルですが、どのように作品を作り上げていったんでしょうか。 礒部氏: 基本的にキャラクター、物語に関しては同時進行で作っていきました。最初は野島一成【※】(『レナティス』でシナリオを担当)さんにメッセージ性やコンセプトと一緒に、「現実世界、東京の渋谷が舞台」、「主人公が男性と女性の2人で対立関係にある」など、絶対にやりたいことをお伝えしました。 たとえば、作中に登場する渋谷の治安を守る組織「M.E.A.(メア)」に関しては、原型(1年目に作った)の企画の時点から名称を付けていたり、魔法使いを取り締まる組織という設定を決めていたんです。 それをどういう風に料理されるかについては野島さんにお願いしました。そこから主人公の年齢や方向性がわかってきたら、シナリオ執筆とキャラクターデザインを同時に進めていったという流れです。 ──礒部さんの頭の中にあったものが理想通りの形になっている、ということですね。 礒部氏: 渋谷が舞台で、3Dアクションで……という基本的な部分は、最初に思い描いていた通りの形になっています。 ただ、うちはほかの会社さんに比べると予算が圧倒的に少ないので、どこに予算を割くかがすごく重要になってくるんです。ですので、「同調圧力に屈しない」という伝えたいテーマが、よりユーザーに感じていただけるように注力しました。 ──そのテーマを届けるために注力した部分というのは? 礒部氏: たとばそのひとつは、現実世界の街(渋谷)を作り上げることです。その現実の延長線上にある世界だからこそ、『レナティス』が掲げているテーマ、伝えたい部分をより真っすぐに伝えられるだろうとの思いがありましたので、可能な限り「現実の街」を再現しました。 大手の会社さんに比べると規模は違いますが、テーマの部分は他タイトルに引けを取らないくらい作り上げられていると思うので、戦闘やストーリーといった体験を通して感じていただきたいですね。 ──『レナティス』をプレイされたユーザーさんに「どのような気持ちになってほしい」と考えられているのですか。 礒部氏: 一番伝えたいのは「個性は出したほういいんだよ」ってことです。たとえば、身なりを例に挙げると自分は本当はこういう格好をしたい、こういう鞄を使いたい。でも、周りと違うし、自分の年齢でそれは……と思っている方々って結構いると思うんです。 その方々が『レナティス』を遊んでくれたことで、周りの目とか気にせずに「自分らしさ全開でいいんだ」、「自分が好きな格好をしていいんだ」と、自分の気持ちに素直に生きるきっかけになれたらと思っています。 ──自分の気持ちを隠さなくていいんだよ、と。 礒部氏: はい。自分がやりたいことをやっていいんだよ。やってくれ、と。 ■同調圧力に屈せず、堂々と好きなものを「好き」と言えるように ──『レナティス』にはさきほどお話のあった野島一成さんのほか、下村陽子さんがコンポーザーを担当するなど、『キングダム ハーツ』好きがニヤリとするクリエイターが制作に参加されています。野島さんと下村さんのおふたりにお願いするというのは最初から決めていたんですか? 礒部氏: 『レナティス』の企画を社内で提案する際に、「野島さんと下村さんに引き受けていただけなかったら、この企画はやりません」と伝えていました。『レナティス』に関しては別のクリエイターさんと作ることは一切考えていませんでしたね。 ──野島さん、下村さんにお願いしたいという、それほどの思いはどこから来ていたんでしょう。 礒部氏: そもそも僕がお二方が関わったゲームで育ってきたのもあるのですが、『レナティス』で表現したい、かっこいい世界観とシナリオを作れるのは野島さんしかいないだろうと思ったんです。 加えて、重厚で神々しさのある音楽を作れて、野島さんのシナリオと世界観にもマッチする方と言ったら下村さんだろう、と。最初から本当に決め打ちだったんです。ですから、社内の稟議が通る前にお二方にはお声かけだけはしていて……。 ──えっ? 礒部氏: お二方ともお忙しいのは把握していたので、一番最初にお話させていただいたんです。 お引き受けいただけたのは、もちろん企画やテーマに共感いただけたのもあると思うのですが、結果的に早い段階にお声がけしたのは良かったのかなと思っています。 ──おふたりにはどのように連絡されたのですか? 礒部氏: フリューが『エクステトラ』【※】というゲームで下村さんとやりとりがあったので、まず下村さんにご連絡して、野島さんとのアポイントをお願いして、おふたりに同時にご相談……という流れでしたね。 ──作品を作り上げていくなかでのやりとりで印象に残っていることはありますか? 礒部氏: 『レナティス』を野島さんと作り上げていく中で「中二病」という単語が出てきたんですが、ひと口に「中二病」と言っても、定義が幅広くて明確に定まっていないじゃないですか。 ですので、まずは僕が思っている「中二病」とは何なのかと定義化して伝え、理解してもらうところから始めたんです。 僕が思う「中二病」って、めちゃくちゃ強い力を持っていて、それを出せれば勝てるのだけど出さない、あるいは出せない状況下にある設定がかっこいいと感じるんです。 「中二病」のそういうかっこよさが僕は好きなんですが……それって恐らく言わないだけでみなさん好きだと思うんですよね(笑)。 ──(笑)。 礒部氏: それを言ってしまうと「中二病じゃん」って言われるのが恥ずかしいので、同調圧力もあって好きだけど言えないんですよ。 そんな同調圧力に屈せず、堂々と好きなものを「好き」と言えるのが、今回の『レナティス』のテーマ性にも繋がってくるんです。 マンガ『NARUTO』のサスケが嫌いな男はいないはずなんですよ(笑)。『スター・ウォーズ』のジェダイの騎士だってそうじゃないですか。ライトセーバーをギリギリまで使わず、余裕な感じで歩いていたりして。かっこいいんですよ。 ■「中二病」を素直に「かっこいい」と言いにくい人たちをターゲットに ──『レナティス』発表後の反響や手応えはいかがですか? 礒部氏: 海外での反響が想像以上に大きくて驚きました。世界観、スタッフィング、渋谷の再現など、僕がターゲットとしていた層にしっかり刺さっているとの手応えはあります。あと、とくにフランスでの反響がすごいとお聞きしています。 ──フランスですか。それはなにか理由が? 礒部氏: 「1st Trailer」の視聴数が段違いに高いと任天堂さんから教えていただいたんですが、類似タイトルのような世界観が好きなユーザーが多いからなのかも……? と推測しています。 ──とはいえ、狙っていた以上に海外での反響があるというのは、発売に向けて喜ばしいことですね。 礒部氏: 「日本のRPG(JRPG)」として海外のみなさんに見ていただきたい思いがあり、極端に「海外受けを狙う」ことはしていなかったのですが、結果としてよい反応をいただけて本当にありがたいです。 ──礒部さんの中で、いわゆるJRPGの定義ってどのように捉えられているんですか? 礒部氏: 物語が右往左往する、複雑なゲームという印象です。敵が誰かわからない、どんでん返しがあるなど、キャラクターが複雑に絡み合いながら紡がれていくのがJRPGの”らしさ”かなと思っています。 あとはリアル調ではなく、少しアニメに寄ったかわいくてかっこいいキャラクターがたくさん登場することでしょうか。 ──ということは、『レナティス』もそうしたJRPGらしい物語になっていると? 礒部氏: はい、もちろんです! 魔法使いの霧積真凛と、それを取り締まる元警察官で「M.E.A.」に所属する西島佐理というシンプルなふたりのキャラクターが対立する構図が最初にあります。 ゲームを進めていくにつれて「ギルド」と呼ばれる第三勢力が現れたり、さらに魔法使いの運命を変えるような出来事に巻き込まれ、事態が混迷を深めていきます。 ほかにも組織内での裏切りとか、渋谷全体を巻き込む事態が起きたりなど、怒涛の展開が後半にかけて展開されていきますので、キャラクターたちの関係性も含めて注目いただければと思います。 ──ちなみに『レナティス』のメインターゲットとして、どの年代に響かせたいと考えているのですか。 礒部氏: みなさんに遊んでいただきたいのですが、一番響くのは、20代後半から30代まで、『FF』シリーズや『KH』シリーズをリアルタイムで遊んでいて、あのダークで幻想的な世界観が好きな方や、社会に出て大人になり、かっこいいをかっこいいと言えない、同調圧力の社会にもがいている私たちのような人をターゲットにしています。 ──礒部さんの世代から見て、その上の年代のゲーマーってどのように思われていますか? ゲームは歴史を重ね、年齢層が幅広くなっている時代です。いわゆる「昔はよかった」的な意見が多くなってきたと思うのですが……。 礒部氏: いやぁ……それを言うと、僕も上の世代になっているんですよね(笑)。 ──いやいやいや! 礒部さんはまだ十分に若いです(笑)。 礒部氏: でも、「想像の10年前と現実の10年前が違う」という話題をよく見かけるじゃないですか。 僕自身も「2、3年前のゲームだと思っていたのが10年前だった」という経験があって、懐かしがる側に属していると思うんです。ですので、上の世代以上に「下の世代が入りやすいように」するため、自分がこれからどうしていくか、と考えることがいまは大きいですね。 昔と違い、いまはスマホで無料のゲームが遊べますし、低価格のインディーゲームもたくさん出ています。その中で、フリューのような中小企業がどうしたら若い世代のユーザーに興味を持ってもらい、ゲームを手に取ってもらえるのか。そこをしっかり考えていきたい……と、会社員っぽいことを言っておきます。僕自身、プロダクトアウト志向なのでなんともですが(笑)。 ──ゲーム開発側もなかなか若い世代が出てこないですよね。でも、そんな中でフリューは山中さん、林さん、そして礒部さんと、若い世代が新規タイトルを手がけられているのは異例だと思います。 礒部氏: そこは本当にフリューにとって一番の強みだと自分も感じています。個人的にはもっと前面に押しだしてもいいんじゃないかと思っているんです。 より多くの方にフリューのチャレンジする姿勢を知っていただければうれしいですね。 ■フルプライスで買ったのならしっかり遊びたい。だから毎月新しいシナリオを追加していく ──最後に、7月25日に発売が迫る『レナティス』の内容や見どころについて教えてください。 礒部氏: 『レナティス』のストーリーは章仕立てになっていまして、真凛が主人公の章と、佐理が主人公となる章を交互にプレイしていく形になっています。 発売前に公開されている体験版では、真凛と佐理、それぞれの1章と2章が遊べまして、サクサク進められれば1時間半か2時間ほどでクリアできるボリュームです。 また、109のスクランブル交差点、道玄坂、センター街のフィールドが探索可能になっています。一部、ロックがかかっている部分もあるのですが、基本的なシステムに関しては製品版と変わりません。 セーブの引き継ぎはないのですが、体験版を遊んでおくことで特別なアイテムがもらえるおまけがありますので、ぜひ興味があればダウンロードして遊んでみていただきたいですね。 ──体験版特有のやり込み要素とかってあるんでしょうか? 礒部氏: 特別なモードがあるというわけではないのですが、2章の真凛編に強敵が現れる仕掛けがあります。 じつはがんばれば勝てるようになっていますので、腕に自信がある方はチャレンジしていただきたいですね。そこから製品版も買っていただければ幸いです。 また、体験版配信後から、遊ばれた方の声を可能な限りゲームに反映したいと思い、Xなどをチェックしておりました。回避の扱いやすさを上げたり、テンポの改善や視認性の向上、チューュートリアルの追加などかなり多くのブラッシュアップを行っております。発売当日にDay1パッチの配信で、それらを追加いたします。 ──それはなかなかハードなスケジュールだったのでは……? 礒部氏: それによって『レナティス』がよりよいものになるのならと……がんばりました! ──なるほど(笑)。Day1パッチが予定されているとのことですが、発売後のアップデートとかも考えられているんでしょうか。 礒部氏: 先日お知らせをしたのですが、全9回の定期的な無料アップデートを行います。 ──買い切り型のゲームで、それほどの期間、アップデートを継続するのは相当珍しい気がします。 礒部氏: そもそも僕自身、いちユーザーとして、フルプライスで買いながら、あとからお金を出してシナリオを遊ぶことに良い印象を持っていないんです。自分がプロデューサーになったら、それはやりたくないなと。 それだけ高いお金を出して買ったのなら、ユーザーとしてはしっかり遊びたいじゃないですか。なので、毎月新しいシナリオを追加していくことを予定しています。 まずは、8月と9月に「佐理と真凛のエピソードの配信」、10月に「シークレットエピソードの配信」を行います。もちろん野島さんが執筆しています。 シークレットエピソードでは新規のボスも実装しています。わかる人にはわかると思いますが、例にもれず、半端ない強さの裏ボスです。ですので、それまでに、ぜひレベル上げなどを行い、万全の体制に……! もちろんシナリオも、シークレットエピソードに相応しい内容になっていますので、楽しみにお待ちください。 ──それを無料で配信するとは……。もうすでに発表されている『新すばらしきこのせかい』とのコラボも無料で体験できるんですよね? 礒部氏: 『新すばらしきこのせかい』のコラボエピソードは、アップデートではなく、最初からゲーム内に組み込んでいます。物語が少し進んだ段階で、とある場所からエピソードをスタートすることができます。 こちらもダウンロードコンテンツとして出すのはちょっと違う気がしましたので、なんとか本編に組み込みまして、皆さんに遊んでもらえるようにしました。 ──太っ腹ですね……。追加のシナリオも含め、配信を楽しみにしております。最後になりますが、『レナティス』に興味がある方、購入を考えられている方へ向けひと言お願いします。 礒部氏: 『レナティス』は最初にお伝えした通り、同調圧力にネガティブな思いを抱いている人、もっと自分をさらけ出したいのに出せない人たちに寄り添うストーリーを描いた作品になっています。 アクションに関しても静と動がすごくハッキリしていまして、回避のときはかっこよく、決めるときは激しく決めるという、ほかとは少し違う手触りになっています。体験版を遊んでいただいたユーザーからは、ストーリーの続きが気になる、アクションが気持ちいい、といったポジティブな意見を非常に多くいただいております。 物語に関しても、登場キャラクターごとの関係や世界観、設定などが入り組んでいて、一見、入りにくいと感じるかもしれませんが、構図は魔法使いとそれを取り締まる元警察官の対立というシンプルなものです。 「出すぎた杭になれば誰にも文句を言われないだろう」との信念から強さを求める真凛、魔法使いという理由だけで個性を抑圧しようとする佐理という対立から始まって、色んなキャラクターたちの思惑などが絡んでくる濃厚な内容になっていますので、注目いただければと思います。 いわゆる続編などの関連作がない、オリジナルの1作目なのでいまがチャンスです、古参を名乗れちゃいます(笑)。ゲームを持って実際の渋谷に行けば聖地巡礼もできますので、いろんな方向から『レナティス』を楽しんでいただきたいです。 ──本日はありがとうございました。今後のさらなるご活躍を期待しています!(了) 「自分がやりたいことをやればいいんだ。だから思いっきりやってみようよ」。 学生時代、自分がやりたいとは心から思っていない習い事を周り、親の目などを気にしながらやってきた人間には、重く響きわたる言葉だった。 「自分はこれをやりたくない!こっちがやりたい!」と言える強さをあのころに持っていれば、いまごろどうなっていたのか。いろいろと後悔の念が出るほど考えてしまった。同時に礒部氏は本当に心の底から自分のやりたいことを楽しみ、周りのことを気にせず、容姿も含めて自らの表現を追い求めて続ける生粋のクリエイターとしての素顔が見えたように思う。 礒部氏の話を聞いていると、『レナティス』の真凛は、そんな氏の経験の一部が投影されたキャラクターでもあり、彼と対立する抑圧側である佐理とその所属組織「M.E.A」、は「出る杭は打たれる」「同調圧力」という風潮が具現化された存在と、ある意味では言えるのかもしれない。 そんな真凛と佐理の対立は、序盤のシンプルな構図から、徐々に複雑な様相を見せると同時に、その題材特有の「待ってました」な展開も用意された作りになっているとのことで、期待に応える仕上がりになっていそうだ。 ディレクターとしてのみならず、企画原案からプロデュースも担当し、文字通り”突き抜ける”形で完成された『レナティス』。このような突き抜けた作品を作り上げた礒部氏が今後、どんな新作を出してくるのか。月並みな締め言葉にはなるが、さらなる活躍に注目したい。 そして、これからも自分の個性、表現を突き詰め続けていって欲しい限りだ。
電ファミニコゲーマー:豊田恵吾,竹中プレジデント
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