「挨拶されて犯罪を思いとどまった」 負の方向へ向かわせる”孤独感”を解消する声かけ
現代のコミュニケーションツール SNSの落とし穴
――コロナ禍において、SNS上のコミュニケーションにはどういう効果や影響があるのでしょうか。 出口保行: 最近ではインスタグラムやTwitterなどのSNSで人とのつながりを感じることができる手段があります。勿論SNSにも一定の効果はあり、“相手に対して何か救済を求める”という面では意味はあると感じます。しかし、このSNSでのやりとりは一方的な発信になりがちで、一方的に関係を切られることも多くあります。 なんでも臆せず発信できるというメリットはありますが、匿名性が高いからこそ、相手のことを考えず、自分の感情だけで関係性を持ったり切ったりできてしまいます。そうなるとSOSを発信したとしても、それを真摯に受け止めてくれる人に届くとも限らず、また信憑性を疑われてしまうなど、本当の心の救済には結びつかないケースが多々あります。そういった一方通行のコミュニケーションだけではなく、“対面でのコミュニケーション”もしていかないと人間はなかなか安心できません。コミュニケーションは取ればよいというものではなく、その質にも目を向けないと本当の孤独感の解消につながりません。
“挨拶”をして人に関心を持つ それが防犯にもつながる
――どのように孤独感の解消につながるようなコミュニケーションを取ればいいのでしょうか。 出口保行: 相手とコミュニケーションを取っていく簡単な方法は“挨拶”です。 「おはようございます」「こんにちは」などシンプルな挨拶が非常に重要になっていきます。挨拶は全ての人がつながっていく上で欠かせない簡単なコミュニケーションの方法の一つだと私は考えています。 この挨拶ひとつで防犯につながることもあります。私が少年鑑別所で勤務していた際に、万引き常習の少年の心理分析を担当したことがあります。その少年は、同じ店でも万引きをしたときとしなかったときがありました。なぜしなかったときがあるのかを尋ねると「挨拶をされたから」と答えました。店員さんからとても優しい目で「いらっしゃいませ、こんにちは」と言われたときは犯行に及べなかったと話していました。 日常において、コンビニ店員がお客様に挨拶することで、実は犯罪をしようとしていた人が“自分に関心を持たれている”と感じることにより、犯行を思いとどまるという防犯効果も多くあります。 人間の心理として、“人に見られているという状況”はとても大切です。それだけで気持ちを落ち着かせ、自分を見つめ直すきっかけになります。人は犯罪を犯そうとしても、実行するかどうかを判断する際に、リスクとコストを考えます。リスクとはそれを実行した際の検挙される危険性の高さです。コストとは、それを実行したのが自分だとばれるときに失うものの大きさで、信頼、家族、友人、仕事などです。コロナ禍全盛期に起きた事件の犯人も、挨拶だけでもいいから、どこかで人との接点を感じることができていれば、もしかしたら違う結果となったのかもしれません。