「成功という夢を追うバンドマン」。彼らへのインタビュー調査で見た"正しい生き方"の呪縛
――例えば1980年代頃のバンドマンのインタビューなどを読むと「バンドをやっていく=親からの勘当も辞さない」というような空気が感じとれますし、おそらく90年代に入るくらいまでは職業として認められなかったように思います。 本書の調査に出てくるバンドマンたちの親は音楽経験者率が高いという話があったように、時代によって夢やバンドに対するイメージも変化してきているのですね。 野村 社会の変化もですし、音楽産業の歴史も関わってくると思います。それに、この本の調査はコロナ禍前なので、現在とはかなり状況が変わっているはずです。 ライブハウスのイベントにたくさん出て評判を上げて、そこから大きな会場やロックフェスに出るような成功例が主流でしたが、コロナ禍を経て、YouTubeや音楽配信サービスから成功した人気アーティストも少なくない。 今後はその変化も追いかけたいですね。今回できなかった調査も多くて。例えば、女性の話ができなかったことは、気にかかっています。 ――男性に比べて、女性のバンド人口が少ないとはいえ、気になりますね。 野村 あとは海外ですね。特にアメリカが顕著なんですが、バンド活動で大成功しなくても、演奏して生活していける地盤があるんです。それがどうして日本ではできないんだろう、と。どうして〝夢追い〟の選択肢が少ないんだろうって。そういったことも今後は調査していきたいですね。 ――また「ビートルズの人数を知らない」と驚かれてしまうのでは(笑)。 野村 確かに(笑)。こうしたバンドマンの〝夢追い〟は自分の研究者人生をかけた壮大なテーマになると思っています。 ●野村 駿(のむら・はやお) 1992年生まれ、岐阜県出身。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程満期退学。博士(教育学)。現在、秋田大学教職課程・キャリア支援センター助教。専門は教育社会学、労働社会学。主要論文に「なぜ若者は夢を追い続けるのか――バンドマンの『将来の夢』をめぐる解釈実践とその論理」など。著書に『調査報告 学校の部活動と働き方改革――教師の意識と実態から考える』(共著、岩波ブックレット)など。本書が初の単著 ■『夢と生きる バンドマンの社会学』岩波書店 2860円(税込)若者が夢を追い始め、追い続け、そして諦める――。少数派ながらいつの時代にも「学生を卒業したら就職する」という、普通とされる生き方を選ばない者たち。本書は、ライブハウスを中心にバンド活動で夢を実現しようとするバンドマンへの参与観察を重ねている。夢は諦めに終わるのか、形を変えて続くのか? 数年にわたる20代から30代のバンドマンへの貴重なインタビュー調査を基に、現代の"夢追い"のリアルな実態を描き出す 取材・文/藤谷千明