「成功という夢を追うバンドマン」。彼らへのインタビュー調査で見た"正しい生き方"の呪縛
野村 本当に知らないことばかりで、ライブハウスに行くたびに疑問に感じたことをメモして、バンドマンたちに訊(たず)ねていました。例えば、「どうしてメンバーがステージに登場するときに、ボーカルが最後に出てくるのか」とか、「どうしてこのライブハウスではドリンクがペットボトルなのに、こっちではカップなのか」とか(笑)。 僕が門外漢だったからこそ、同じようにステージに立ったことのない人間だったからこそ、研究参加者の皆さんもいろんなことを話してくれたのかもしれません。 本書ではバンドが解散する経緯など、かなり踏み込んだ話もしていますが、周りから「バンド経験者だったら絶対こんな質問できないよ」という感想をもらったこともあります。 ――本書に出てくる「バンドを続けるためにはフリーターであるべき」といった、"ライブハウス共同体"の空気についての考察も興味深かったです。 野村 「皆そうだから」「先輩のバンドマンもそうだから」と、バンドマンはフリーターであるべきという考えが、ある種の神話のようになっていたんです。 反対に、就職活動をしている人や正社員でバンドマンをやっている人たちは疎外感を覚えていて、「働き方は違えど、僕たちもバンドマンなんだけどね......」という感じで。その言葉はフリーター側からは出てこない。"夢追い"と働き方の相関は本書のメインテーマのひとつです。 ――世間では副業ブームだったり働き方改革だったりで、職業の多様な選択肢が開かれている一方で、バンドマンは職業の側面も持ちつつ、"夢追い"や生き方の問題でもあるから、ストイックさが求められてしまうのかもしれません。 野村 ストイックさもそうですが、急なライブへの誘いにも対応しやすいのもあります。あとは単純に「次の日仕事だから」と、ライブ後の打ち上げなどに参加できなくてつながりを持ちにくく、後々のライブイベントに誘われにくい......といった構造もあります。 ――野村さんご自身は"夢追い"に対してどのような考えを持っていますか? 野村 僕は、ゆとり世代のちょうど真ん中くらいの1992年生まれなので、本書では「標準的ライフコース」といっている大企業の会社員や公務員を目指す人もいれば、ベンチャー企業に就職する人、自分で会社を立ち上げる人なんかも一定数いるような世代です。 いろんな働き方が当たり前になっていたので、フリーターになることにそこまで抵抗がない人もいて、バンドマンなどの"夢追い"側の人たちも自然と共存していた印象があります。