ソニックマニア総括 サカナクション、アンダーワールドら奇才たちの台風を吹き飛ばす熱演
坂本慎太郎、ニア・アーカイヴス、千葉雄喜、cero、牛尾憲輔
【Major Lazor】24:30~25:40 今度は会場を端から端まで移動して、MOUNTAIN STAGEのメジャー・レイザーに。トゥワークなどの腰振りダンスをしまくる女性ダンサーたち、観客をガンガン煽るエイプ・ドラムスとウォルシー・ファイア、そして黙々と音を操るディプロという布陣。レゲトンあり、ラップあり、ウォブリーなEDMあり、ひたすらブリブリ、とにかく猥雑で楽しい、頭を空っぽにして楽しみたいベースミュージック祭りだ。しかしサウンドのクオリティは流石、安心のディプロ印。全体の流れの作り方、会場の空気の持っていき方が抜群に上手い。旬のヒット曲であるミーガン・ジ・スタリオン「Mamushi (feat. Yuki Chiba)」や自身の代表曲「Lean On」なども挟みながら、フロアを自在に操る手腕は圧巻だ。「世界で最も稼いでいるDJ」トップ10に何度も入っている実力は伊達じゃない。この夜で随一の、底抜けに楽しいパーティミュージックを骨の髄まで堪能した。(小林) 【坂本慎太郎】25:10~24:10 SONIC STAGEのフロアのあちこちから男性の「慎太郎!」という声が聞こえる中、まず「死者より」を演奏した坂本慎太郎。もったりとした酩酊感溢れるグルーヴが場内を包み込む。「まともがわからない」であらゆる境界線を漂白した後は、西内徹のマラカスの音が享楽性を滲ませる「あなたもロボットになれる」。「愛のふとさ」ではメッセが蛍のようにも未確認飛行物体のようにも見える無数のパープルのライトで彩られた。隙間の多いミニマルな音なのにいとも簡単にオーディエンスを踊らせてしまうのがやはりすごい。「物語のように」「君はそう決めた」「ディスコって」と、甘美なメロディでディストピアとユートピアが交錯するような世界を描いた後、「ナマで踊ろう」ではバンドアンサンブルに坂本がゴリゴリのギターノイズを混ぜ込み、オーディエンスを圧倒した。(小松) 【Nia Archives】25:30~26:30 海外勢の最後はPACIFIC STAGEのニア・アーカイヴス。本人も言っていたように、彼女のステージはまさに「DJとライブのハイブリッド」。前半はDJセットで幕を開け、時間が1/3ほど過ぎたあたりから自身がマイクを持って歌うライブパフォーマンスの時間に。そして終盤は再びDJセットに戻ってくるという流れだ。DJであれライブであれ、ニアはとにかく楽しそうにパフォーマンスをする。DJをしながら頭をブンブンと振り、両手を高く突き上げながら踊っている様子を見ていると、彼女が心の底からジャングル、ドラムンベースを愛していることが伝わってくるだろう。彼女の曲には内省的なところもあるが、ステージではとことん陽性だ。そしてライブパフォーマンスのときはただマイクを持つだけではなく、DJ機材の前に出てきて、ポップシンガーのようにステージを歩き回りながら歌う。アンダーグラウンドのDJカルチャーに出自を持ちながらも、ポップスター的な振る舞いをすることに屈託がないところが新世代的に感じられた。 今年4月にアルバムを出して以前よりもライブパートが増えたので、必然的にDJパートは短くなっている。だがその限られた時間の中でも、グウェン・ステファニ「Hollaback Girl」、チャーリーXCX「360」、ソフィー・エリス・ベクスター「Murder on the Dancefloor」など、多彩なガールズアンセムのエディットを次々に投下するというサービス精神の旺盛さも見せてくれた。そうした姿勢も関係しているのだろう、彼女のステージは一貫して本格的なジャングルのビートが鳴り響いているのに、どこかポップな魅力も放っている。おそらくこの夜のオーディエンスはジャングルのパーティは未経験という人も多かったと思うが、そんな人たちも巻き込んで盛り上げられる間口の広さがそこにはあった。 【Young Coco~Jin Dogg~千葉雄喜 -Shot Live-】26:20~27:20 真夜中のMONTAIN STAGE、Young Cocoからバトンを渡されたJin Doggが「俺たち何?」とオーディエンスに問いかけると広大なフロアから一斉に「チーム友達!」という声が轟いた。そもそも「チーム友達」とはJin Doggがリリック内で多用していたフレーズなわけだが、言わばオリジンと言えるJin Doggが契りの言葉を発する中、LEDビジョンにはチーム友達の証である「TEAM TOMODACHI」のペンダントトップが映し出される。Young Cocoが再登場し、二人で「関西関東 西東、北南/チーム友達 チーム友達」とスピットした後、Jin Doggが「これで終わりじゃないぞ!」とシャウトし、千葉雄喜が数十人の友達を引き連れてステージに登場。先ほどPACIFIC STAGEでパフォーマンスをしたアルカの姿も見える。千葉雄喜の指示で、数万のスマホライトが光る中、「契ろう!」という言葉が轟く光景は圧巻だった。 【cero】26:40~27:30 高城晶平が「こんばんはceroです」と言って鳴らされたのは「Summer Soul」。メッセの外で吹きすさぶ雨風からオーディエンスを守るかのような親密さと密やかさが漂う中、高城のウィスパー気味の歌がじんわりと広がっていく。高城のフルートの調べが涼し気に響き、ラップ調の歌がチルなムードが醸成する。高城が手を掲げて「Summer Soul...Summer Soul...」とリピートするとフロアからたくさんの手が上がった。「やがてすぐ 雨はどこかへ消えて/見たことない夕暮れに」。この後、さらに素晴らしい体験が待っているかのような歌詞を乗せたグルーヴにオーディエンスが心地よさそうに体を揺らす。何かに追い立てられるように性急に進行するアンサンブルと凄みを感じさせる呟き調の高城の歌──「マイ・ロスト・シティー」だ。何度も繰り返される「ダンスをとめるな!」というフレーズに呼応するようにオーディエンスは楽しそうに踊った。 【牛尾憲輔 (OST Dance Set)】28:20~29:00 トリとしてPACIFIC STAGEに登場したのは牛尾憲輔。実際のアニメーションの映像をビジョンに流しながら「チェンソーマン」「デビルマン」「ダンダダン」「聲の形」「ピンポン」といった人気アニメの楽曲を流し、躍らせながらも目をビジョンに釘付けにするというスペシャルなパフォーマンスが展開され、今年のソニックマニアは終演を迎えた。
Kaori Komatsu, Yoshiharu Kobayashi