『宙わたる教室』最終回後もじんわりと心に残る温かさ 科学部が“らしさ”全開で掴んだ世界
窪田正孝が受け身の演技で科学部一人ひとりを引き立てる
本作は、大阪にある定時制高校の科学部が、2017年に「日本地球惑星科学連合大会・高校生の部」で優秀賞を受賞し、「はやぶさ2」の基礎実験にも参加したという実話に着想を得た伊与原新の小説を原作としたドラマだ。だから、結末はある意味、分かっていた。それなのに、いざその時が来るとこんなにも心が震えるのは、科学部のこれまでの道のりが繊細かつドラマチックに描かれていたから。俳優の演技、脚本、演出、音楽。さまざまな要素が見事な化学反応を起こし、大きな感動をもたらしてくれた。優秀賞の発表で東新宿高校定時制の名前が呼ばれた瞬間、主題歌「Break out of your bubble」が流れる。Little Glee Monsterの多彩な歌声もまた、彼らが見ている景色を私たちに共有してくれる大事な要素だ。 この学会の少し前、佐久間が佳純に松谷(菊地姫奈)が自立への一歩を踏み出したことを教えてくれた。岳人たちだけが特別なわけじゃない。どんな人間にも必ず可能性はあると教えてくれたのが本作だ。そして、誰よりもそう信じている藤竹が導いてきた科学部の発表は、石神(高島礼子)や相澤(中村蒼)の心をも動かした。部員たちは重力可変装置に興味を持った相澤から探査機「しののめ」の基礎実験に誘われ、「やりたい」と即答する。何をするにもまず、不安が先立っていた頃の彼らからは考えられないほど、前のめりな姿勢で。 藤竹は人を「その気」にさせる天才だった。彼自身は何も特別なことはしていない。ただ、その純粋な目で見つめられると「やらなきゃ」と思わせる不思議な力が藤竹にはある。淡々としているようで中心温度は高く、根回し上手な“食えないやつ”。窪田は主演でありながら徹底した受け身の演技で科学部のみんなを引き立てつつも、重層的な演技で藤竹を仕上げていた。 研究者と教師との間で揺れる“弱さ”もあったのが、このドラマにおける藤竹の魅力だ。ゆえに伊之瀬(長谷川初範)を通じて、NASAの主任研究員からカリフォルニアでの研究に誘われ、迷っていた藤竹を今度は岳人が「その気」にさせる。 「俺さ、あんたに会う前の世界より今の世界のほうが好きだよ」「そっくりそのままお返しします」と握手を交わす2人の間に、上も下もない。対等で、藤竹が誰よりも望んでいた景色だ。 都会でも目を凝らせば、夜空に大小さまざまな、瞬き方も異なる星が広がっている。これから星を見つけたら、きっと彼らのことを思い出すだろう。そして、そのたびに私たちも「やる気」にさせられるのだ。
苫とり子