「長男・事故死」「三男・客死」「四男・拳銃自殺」…“呪われた一族”と言われたプロレス一家の「なぜ」に答えたA24の新作映画…監督が語った「レスラーたちの痛みと悲しみ」
監督のプロレスの原体験
アラフィフ世代なら、1980年代のテレビ東京で『世界のプロレス』という番組が放送されていたのを覚えているのではないか。 【写真】大胆な水着姿に全米騒然…トランプ前大統領の「娘の美貌」がヤバすぎる! タイトル通り、海外のプロレスの試合を放送する番組。同局の『三菱ダイヤモンド・サッカー』のように、インターネットもCS放送もない時代における数少ない“海の向こうに開かれた窓”だった。一世を風靡したロード・ウォリアーズを初めて見たのも『世界のプロレス』だった記憶がある。 あの頃、海外のプロレス、その本場であるアメリカのプロレスは今と比べて情報が少なく、それゆえに想像をかきたてた。“未知の強豪”がストレートに存在できた時代だ。 4月5日に公開される映画『アイアンクロー』の監督ショーン・ダーキンも、生で見たことがないプロレスの世界に想いを馳せていたという。1981年生まれ。リアルタイムで熱中したのは80年代後半から90年代前半のWWF(現WWE)だ。 「レッスルマニア3から8の頃が最高でしたね」 WWF(WWE)が開催するプロレス界最大の“祭典”レッスルマニア。その第3回大会(1987年)といえば、ハルク・ホーガンvsアンドレ・ザ・ジャイアントが行われた伝説の興行である。監督のお気に入りレスラーはブレット“ヒットマン”ハートとのこと。 一方で、ダーキンは自分が生まれた頃のプロレスにも深い興味を持った。WWEが全米を制圧する前、70年代後半から80年代前半のアメリカンプロレスだ。当時は各地に有力プロモーターがいて、それぞれのテリトリー、団体に人気選手がいた。その頂点に立つのが、プロモーターの連合体であるNWAの世界ヘビー級チャンピオンだ。煌びやかなWWFに対して、テリトリー時代のプロレスの「荒々しく、ザラついた」雰囲気に惹かれたとダーキンは言う。
プロレス一家の栄光と悲劇を描く
『アイアンクロー』は、まさにその時代を描いた映画だ。選手からプロモーターに転じて大成功を収めたフリッツ・フォン・エリックとその息子たちの実話がベース。凄まじい握力で相手の頭部を締め付けるアイアンクロー(鉄の爪)を武器としたフリッツは日本マットにもたびたび登場した有名選手だった。 フリッツは地元テキサスで団体WCCWを興し、そこで息子たちもレスラーデビューさせる。狙いは自分が獲ることができなかった世界最高峰、NWA世界王座だ。 フリッツ・フォン・エリックの現役時代を見たことはなかったが、筆者のような日本の(それも地方の)プロレス小僧にも“エリック一家”はピカピカの金看板だった。父の悲願と得意技を受け継ぐというドラマ性。研ぎ澄まされた筋肉も抜群にカッコよかった。 テキサスからやってきたところは『キン肉マン』の人気キャラ・テリーマンとも重なった。フリッツは梶原一騎原作『プロレススーパースター列伝』にも登場。売り出し中のブルーザー・ブロディに立ちはだかるプロモーター兼レスラーは、ファイトマネーも自分の銀行から支払うほどの超大物として描かれていた。 我々の胸をときめかせてくれたエリック一家。しかし彼らは“呪われた一族”とも呼ばれることになる。長男ジャックJr.は幼少期に事故死。兄弟の出世頭になると思われた三男デビッドは試合に訪れた日本で急死する。 NWA世界王者となった四男ケリーはバイク事故で右足を切断することに。義足で復活するも、1993年に拳銃自殺。五男マイク、映画には登場しない六男クリスも自死を選んだ。 いったいなぜ......。痛ましいニュースを知るたびに思ったものだ。映画『アイアンクロー』は、その「なぜ」に答える映画でもある。