尾道造船、MR型3隻受注。船価回復で収益性改善。5年ぶり建造再開
尾道造船は国内船主からMR(ミディアムレンジ)型プロダクト船3隻を受注した。MR型の建造を手掛けるのは引き渡しベースで約5年ぶり。全て尾道造船所(広島県尾道市)で建造し、2027年末にかけて引き渡す予定だ。同社は近年、4万重量トン型(40型)バルカーの連続建造でコストを圧縮して財務基盤の回復を進めてきた。主力であるMR型の船価相場が採算ラインまで上昇してきたことを受け、日本船主の需要に応え建造を再開する。 3隻は全て50型で、新造船燃費規制EEDI(エネルギー効率設計指標)フェーズ3、NOx(窒素酸化物)3次規制(ティア3)に対応し、SOx(硫黄酸化物)スクラバー(排ガス浄化装置)を搭載する。 尾道造船はMR型を主力製品に持つが、20年春に旭タンカーから2隻を受注して以降、長く建造を見合わせていた。ここに来て受注を決めた主因は、MR型の船価回復による採算性の改善だ。 「鋼材価格の高騰や海外調達品に対する円安の影響など、MR型の採算を下押しする外部環境が完全に好転したとは言えないが、船価がようやく採算ラインに乗った。韓国造船所の船価水準が上がってきたこともあり、発注先の選択肢に日本造船所が入るようになった」(関係者) 英クラークソンズ・リサーチによると、足元のMR型の船価相場は4800万ドルと、22年末と比べて10%超上昇した。今回の受注額は不明だが、この水準に近いとみられる。 これに加え、「MR型の建造技術継承の観点からも、あまり間隔を空けずに受注したい思いがあった」(同)。 同社は今回の受注により、尾道造船所の27年船台を完売した。 また、21年に三井E&S造船との共同開発で市場投入したEEDIフェーズ3対応の40型バルカーの累計受注隻数は36隻に達し、同社グループの佐伯重工業(大分県佐伯市)は線表を27年前半まで進めた。 【解説】主力に回帰、環境整う MR型はカーゴタンク用ポンプなど装備品が多く、40型バルカーが搭載する舶用機器のほぼ全量を国内から調達するのに対し、海外調達の比率が高い。このため、円安局面では調達コストが膨らむ。これに加え、40型に比べ建造工数が多く固定費がかさむほか、使用鋼材も1隻当たり2000トンほど多いため鋼材価格高騰の影響が大きく、近年はMR型の収益性が40型に比べて低い状況が続いていた。 尾道造船はこうした中でここ数年、40型バルカーを積極的に成約することで財務基盤を固めながら、主力製品であるMR型の受注環境の本格回復に備える戦略を取ってきた。 22年夏の時点では、40型バルカーを仮に3300万ドルで受注する場合、同程度の収益を確保するためにはMR型を4500万ドル程度で受注する必要があるとみられていた。尾道造船は足元の船価水準が4800万ドル近くになったことでコスト増をカバーできるレベルに達したと判断し、受注活動を再開したとみられる。 同一船型のバルカーの連続建造体制は、ドライ市況が低迷すれば新造需要に急ブレーキがかかる懸念もあった。用船料の値動きが異なるMR型の受注再開は、マーケットリスクのヘッジにもつながる。 リプレース需要が今後ピークを迎える見通しであることも受注再開の一因だろう。MR型の新造船の竣工が特に集中したのが、海運ブーム直後の08―12年ごろ。当初はこれらの船舶が船齢15年を迎える23―27年の竣工船が大量発注されるとみられていたが、プロダクト船市況の低迷でこのタイミングが後ろ倒しになり、今後数年はまとまった代替需要が期待できる。 その他の要因として挙げられるのが、貨物需要の拡大だ。関係者は「MR型は汎用(はんよう)性が高い。ナフサなど石油製品のほか、燃料としてのメタノールなど新たな輸送需要も生まれつつある」と指摘。カーゴタンクの塗装により多様な貨物に対応できるMR型の新造需要は引き続き旺盛と見込む。 現在国内でMR型を建造メニューに持つのは、同社と今治造船グループの南日本造船だけ。MR型は韓国の現代尾浦造船が世界トップの圧倒的なシェアを持つが、尾道造船は日本建造志向が強い国内船主の需要に応えるほか、同船型に携わる国内メーカーへの発注を続けることで、日本の海事業界としてMR型の建造技術を継承していくことも重視しているようだ。 (幡野遥)
日本海事新聞社