逮捕者続々の“私人逮捕系”YouTuber、なぜ増加? ITジャーナリストが語る「背景と対策」
今年に入って問題視されていた“私人逮捕系YouTuber”が次々と逮捕されている。11月20日、YouTubeチャンネル「ガッツch」で活動していた中島蓮こと今野蓮容疑者、みっちーこと奥村路丈容疑者を覚醒剤取締法違反の教唆の疑いで逮捕。さらには、11月13日に「煉獄コロアキ」という名義で活動していた杉田一明容疑者が名誉棄損の疑いで逮捕された。 【写真】“私人逮捕系”YouTuberについて語る三上洋 “有名どころ”が逮捕され、私人逮捕系に関する問題は落ち着きを見せるだろう。とはいえ、私人逮捕系のように犯罪に抵触するような過激な活動をして、その様子を撮影してアップする投稿者が増加する可能性は高い。そうした投稿者を出さないためにも、なぜ私人逮捕系が登場したのかを知っておく必要がある。ITジャーナリストの三上洋氏に話を聞いた。 ・プラットフォーム側はレコメンドさせない整備を ――私人逮捕系YouTuberが注目されるようになった背景について、三上さんはどのように考えますか。 三上:YouTubeをはじめ、多くのSNSではそのユーザーの傾向を分析したうえで、興味がありそうなコンテンツを提示するアルゴリズムが働いています。YouTubeで言うと関連動画として似たような内容の動画が表示されやすくなります。 ――過激な動画を見て、また違う過激な動画をオススメされて……のループは起きそうですね。 三上:そうですね。YouTubeはもともと過激な動画が注目されやすい構造です。私人逮捕系のような迷惑系ではなくても、元反社会的勢力や元暴走族などアウトロー系のYouTuberの動画は人気を集めています。当然私人逮捕系も再生されやすく、次から次へと表示される過激な動画を見続ける人が増え、大きな話題を集めるようになりました。 ――裏を返せば、過激な動画をレコメンドしないようにアルゴリズムを見直せば今回のような騒動は起きなかったと? 三上:そうかもしれません。暴力シーンやヘイト発言など過激な動画をレコメンドしない、もしくはレコメンドする割合を下げるなど、プラットフォームは見直す必要がありました。ちなみに、TikTokは特にその傾向が強く、TikTokで注目されてYouTubeチャンネルを登録する、というケースは大きいです。 ――YouTubeやTikTokなどは過激な動画に対する取り締まりを行っていないのですか? 三上:行っているとは思いますが、基本的にはAIの自動プログラムが動画解析をしており、適切な精査はできていません。そこはしっかり人員を増やして人の目で判断して、過激な動画に対しては適切な対処をするべきです。 ・私人逮捕系YouTuberで生計を立てることは難易度が高い ――レコメンドさせないことは大切ですが、やはり過激すぎる動画の広告収入を早急に停止することもYouTube側に求められるはずです。とはいえ、「ガッツch」はYouTubeの広告収入が停止された後、クラウドファンディングを実施して100万円以上を超えるお金を集めていました。そのクラウドファンディングは早々に停止になりましたが、知名度があればお金を稼げてしまう構造の見直しも必要になるのではないですか? 三上:広告収入、クラファン、投げ銭(スーパーチャット)、Amazonの欲しいものリストなど、知名度があればお金や物をもらえる仕組みは多様化・充実化しました。とはいえ、「悪名は無名に勝る」という言葉がある通り、知名度があれば稼げてしまう構造は昔から存在します。テレビ番組でも“お騒がせ”した政治家やタレントが出演するケースは珍しくありません。悪名であっても知名度があれば一定の需要があり、ある意味“人間社会の性”であり対処は難しいと考えます。 ――私人逮捕系よりも過激な動画を投稿して知名度を稼いでお金や物をもらおうとする、ある意味“無敵の人”的な発信者も出てきそうですが。 三上:「ガッツch」のクラファンを見るとそういう人は出てくるかもしれませんね。とはいえ、仮に知名度が上がったとしても、稼げたり支持されたりするかと言えばそうではありません。迷惑系YouTuberとして世間を騒がせたへずまりゅうも「迷惑系で食えないことを証明しました」と投稿しており、そこまで増加はしないでしょう。 ――知名度があれば必ず稼げるわけではないのかもしれませんね。 三上:そう思います。たしかにクラファンの結果を見ると「ガッツch」は一定数ファンがついていることが伺えますが、彼はかなりのレアケースです。私人逮捕系を含む迷惑系で生計を立てることは難易度が高く、いろいろな意味でやめたほうが良いです。 ・規制が今後の命運を握る ――今後私人逮捕系のような迷惑系を生まないため、政府は法規制などを検討すべきでは? 三上:私は“インターネット大好き人間”なので、ネットは基本的に自由であるべきと考えています。「良いものもあれば悪いものもある。だから放置しよう」というのが本来の私の主義です。しかし、迷惑行為・犯罪行為をして収入を得ている現状は看過できないため、規制は実施すべきです。 ――具体的にはどのような規制が有効ですか? 三上:“表現の自由”を脅かしてしまうため動画投稿者に対してなにかしらの規制を強いることは難しい。ただ、プラットフォーム側に規制を設けることはできます。たとえば政府がプラットフォームに対して「私人逮捕などの迷惑動画を監視し削除する」といった規制をかけ、プラットフォーム側が実行しない場合に罰金を科すやり方です。EUでは2022年11月に「デジタルサービス法(DSA)」を施行したことにより、違法コンテンツや利用規約違反のコンテンツを放置していた場合、プラットフォーム側は罰金を支払わなければいけなくなりました。 (参考:総務省 EU・デジタルサービス法(DSA)の概要) ――それならプラットフォームも本気で着手してくれそうですね。 三上:私人逮捕系YouTuberが広告収入を得ているとはいっても、その約半分はYouTube側に入っているわけです。私は規制反対派ですが、ビジネスになっているのであれば規制はやむをえないでしょう。
望月悠木