じつに73年ぶりの新造船「1年間は地獄見るつもり」 日本の新たな「捕鯨」船出 クジラ肉は身近になるのか?
73年ぶり新造の捕鯨母船「船出」
捕鯨会社の共同船舶(東京都中央区)が新造整備した捕鯨母船「関鯨丸」が2024年5月25日、東北沖で母船式捕鯨に従事するため東京港を出港しました。同社の所 英樹社長は初出漁に当たり、「66億円の鯨肉マーケットを築き上げるというのが目標。今後、3年から5年で達成できると考えている」と意気込みます。 【スゴイ大きさ!】これが船内の「クジラを解体する場所」です(写真) キャッチャーボート1隻を伴って出漁した「関鯨丸」は6月9日までに15頭のニタリクジラを捕獲。6月9日には荷揚げのため仙台港に入港しました。 「関鯨丸」は日本の国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退と商業捕鯨の再開を踏まえ、設備の近代化と高性能化を図った捕鯨母船として73年ぶりに新造整備されました。建造ヤードは旭洋造船で、船価は約75億円です。 商業捕鯨に特化した設計が取り入れられており、例えば船尾スリップウェイの傾斜角度は、遠洋漁業で使用するトロール船を改造した旧型の捕鯨母船「日新丸」(8145総トン)が35度だったのに対し、「関鯨丸」では70トン級のクジラも引き揚げられるよう18度に緩和されています。 総トン数は約9299総トン、船体寸法は全長112.6m、幅21m。推進システムは、発電機とモーターを組み合わせた2基2軸の電気推進方式を採用し騒音と振動を軽減しています。航続距離は南極海に到達可能な7000カイリ(約1万3000km)を確保しました。 ただ、2019年7月に再開した商業捕鯨の操業海域は日本の領海と排他的経済水域(EEZ)に限定されています。そのため「商業捕鯨をやるため南極に行くことは無い」(所社長)としています。
ダブつく鯨肉 荒波にある捕鯨の現状
捕獲対象は十分な資源量が確認されたミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラの3鯨種に限定されており、漁獲可能量(TAC)もIWCの採択に基づく方式で算出された捕獲可能量以下に設定されています。共同船舶はこうした政府の方針に従って、2023年はニタリクジラを187頭、イワシクジラを24頭、捕獲しました。2024年6月には水産庁が新たにナガスクジラを捕獲対象に加える案を了承しており、「関鯨丸」はこうした捕鯨種の拡大にも対応できるようになっています。 しかし農林水産省によると鯨肉の消費量はピーク時の1962年度に約23万トンを記録してから減少を続け、2022年度は2000トン程度。牛、豚、鶏肉の消費量が400万トン以上であることを考えれば、一般に馴染んでいるとは言い難いのが現状です。 同省は商業捕鯨の再開以降、沖合海域実証事業(2023年度は3.5億円)で鯨肉の市場開拓などの取り組みを支援。さらに共同船舶に対して「母船式捕鯨業特有の資産(冷凍鯨肉)の流動性の低さ等を踏まえ、調査捕鯨から商業捕鯨への円滑な移行を進めるための運転資金」として、「鯨類の科学調査に協力する船舶の運航や生産物の販売等に必要な経費」について、基金事業による助成金10億円(2023年度)を貸付方式で交付しています。 さらに水産庁が行った「鯨類の持続的な利用の確保の在り方に関する検討会」の取りまとめでは、「鯨肉在庫は増加傾向にあり、依然として(共同船舶の)キャッシュフローは厳しい状況にある」と指摘。「大手量販店の鯨肉の取扱いの敬遠による流通ルートの制約」が課題の一つとなっていることや、収支面の不安要素として「関鯨丸」の減価償却費やアイスランド鯨肉の保管費用などがあげられています。