【厚生年金と国民年金】繰下げ受給のデメリット4つを解説
日本の年金制度では、受給開始年齢を遅らせることで年金額を増やすことができる「繰下げ受給」という選択肢があります。 ◆【一覧表】繰下げ受給のデメリット4つを見る しかし、厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業年報 結果の概要」によると、実際に繰下げ受給を選択する人の割合は、国民年金(老齢基礎年金)では全体の2.0%、厚生年金では全体のわずか1.3%程度にとどまっています。 なぜ多くの人が繰下げ受給を選択しないのでしょうか。今回は、繰下げ受給の仕組みを説明するとともに、そのデメリットについて解説していきます。ぜひ参考にしてください。 ※編集部注:外部配信先ではハイパーリンクや図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
年金の受給制度について
最初に、年金の受給制度について簡単に説明をしていきます。現在の日本では、老齢となったことを原因として支給が開始される老齢年金は、原則として65歳から受け取ることができるものです。 しかし、その受給開始年齢は60歳から75歳までの間で自分で選択することができます。 ●繰下げ受給とは 受給開始年齢を65歳よりも繰下げをして遅らせた場合には、1ヶ月ごとに0.7%の年金額が増額されます。 例えば、65歳時点で年額180万円の年金の受給額があった人が70歳まで繰り下げた場合、増額率は42%のため、増額後の年金額は180万円×1.42=255万6000円です。 月額で考えると、15万円だったものが21万3000円になります。 このように年金の受給額が増える制度にもかかわらず、実際に繰下げ受給を選択する人はなぜ少数なのか、疑問を持たれる方もいるのではないでしょうか。 次に、繰下げ受給によるデメリットを踏まえて、なぜ多くの人が繰下げ支給を避けるのかを考えていきます。
繰下げ受給のデメリット4つ
年金が増額となる繰下げ受給の制度ですが、使うことにより下記のようなデメリットも存在します。 ・受給総額が逆転するまでに時間がかかる ・当面の生活資金が不足する可能性がある ・インフレリスクへの対応が難しくなる ・税金や保険料の負担が増える可能性がある 次に、デメリットについて1つずつ説明していきます。 ●デメリット1:受給総額が逆転するまでに時間がかかる 年金の受給開始年齢を繰下げた場合、繰り下げた年金額の受給総額が原則の年齢で受給した総額を上回るまでに、ある程度の時間が必要になります。 日本人の最新の平均寿命は、2023年時点の統計によると男性が81.09歳、女性が87.14歳となっています。 人が健康に生きられる健康寿命で考えた場合には、これよりも更に低い年齢となるため、年金額を繰下げた場合に年金総額としてメリットを得られるかどうかは断定することができません。 不明確な将来の資産のために我慢をするよりも、元気なうちに年金を貰っておきたいと考える人であれば、繰下げ受給の選択をしないことが考えられます。 ●デメリット2:当面の生活資金が不足する可能性がある 例えば65歳で定年を迎えて退職し、70歳まで年金を繰下げをしたとします。65歳から70歳までの5年間は年金が受給できないため、その間の生活資金を別途用意する必要があります。 退職金や貯蓄がある、あるいは引き続き就労をするなどの、生活費となる資産や収入がない場合、この期間の生活が経済的に厳しくなることが考えられます。 65歳で定年を迎える人や収入が低下する人であれば、安定した収入源としての年金が65歳の時点で必要となる場合が多いため、繰下げ受給の選択をしないことが考えられます。 ●デメリット3:インフレリスクへの対応が難しくなる 支給される年金額は、世の中の物価変動に合わせて随時調整することとなっていますが、マクロ経済スライドという制度により、実際の物価上昇に完全に連動するわけではありません。 マクロ経済スライドは、物価上昇の際に連動して増加する年金給付額を抑制するための仕組みであり、それにより物価上昇よりも年金額の増額調整幅が抑えられることになります。 現在の日本はインフレの流れが強くなっていますが、今後もインフレが進んだ場合、繰下げをすることによりその影響を大きく受けやすくなることが考えられます。 そのため、早めに年金の受給を開始して、自分自身でインフレリスクに備えた資産運用をしようと考えた場合には、繰下げ受給の選択をしないことが考えられます。 ●デメリット4: 税金や保険料の負担が増える可能性がある 繰下げ受給によって年金額が増えると、所得税や住民税、国民健康保険料などの負担が増える可能性があります。 これらは所得に応じて税率や税額、保険料額が変動するため、受給年金額が増えて年間の所得が増加することにより、支払わなくてはいけない金額も増えるためです。 また、高額療養費制度の自己負担限度額や介護保険料なども、所得に応じて変動します。 繰下げ受給によって年金の受給額は増えますが、同様に控除される税金や保険料の額も高くなり、結果として手取りの年金額が思ったほど増えないというケースも考えられます。 そういった年金や保険料の綿密な計算をすることは難しいため、原則的な受給開始年齢を選択する人も多いのではないかと考えられます。