『一番強い競馬』をしたのはどの馬なのか?
ただし、オークスの勝者は紛れもなくヌーヴォレコルトだ。陣営からすれば、戦前からハープスターが直線大外から強襲することは想定できていた。斎藤誠調教師は、パドックで岩田騎手に「勝てるレースをしてください」とだけ伝えたという。当然のことだが、競馬は2頭でマッチレースをするわけではなく、またセパレートコースで走るものでもない。自ら仕掛けてペースを乱したり、時には他馬を利用して相手のミスを誘う作戦もある。1、2着はわずか首差。距離ロスを最小限に抑え、ギリギリの線で勝負した岩田騎手の好騎乗は見事であり、鞍上の指示に応えたヌーヴォレコルトの操縦性の高さも、この馬が持つ能力のひとつと言っていいだろう。 競馬関係者の意見も様々だ。ヌーヴォレコルトの勝利を称えた某調教師は「あの馬は、直線で窮屈になり、仕掛けのタイミングが遅れた桜花賞でも3着。スムーズなら際どい勝負になっていただろうし、オークスでもチャンスがあると思っていた。ハープスターに比べて、競馬も上手。立ち回りのうまさが勝敗を分けたね。間違いなく強い馬だよ」と回顧。自らが手がける馬も、積極的な競馬ができるように造り上げているという。「昔と違って、今は芝の管理が行き届いているからね。インコースを走る方が圧倒的に有利だし、前々で運ぶためにも、ウチの馬はゲート練習に時間を掛けているよ。もちろん、馬の個性もあるし、末脚勝負に徹した方がいい馬もいるけど、いかなるカテゴリーでも、ゲートは速いに越したことはないと思う」と力説した。 また、ハープスターを擁護する声も多かった。ある調教師は「桜花賞であれだけの末脚を使ったのだし、オークスへ向かうまでの課程でもう特別なことをする必要はない。次も人気は確実なんだし、もしも自分がその立場だったら、ハープ陣営と同じくセーフティーな競馬をするよう指示すると思うよ。確かに、勝ち馬とは位置取りの差が出たけど、あの短期間で脚質を変えるように調整するなんて無理。人間でも人に物事を教えるのは時間がかかるのに、まして相手は言葉をしゃべれない馬なんだから。教え込むのは簡単なものじゃないし、そんなことをしたら精神的にマイナスに働く可能性は高い。前で競馬ができなかったから負けたなんて結果論だ。競馬はゲームじゃないんだから」と熱く話してくれた。 改めて、強さの定義は難しいが、ひとつ言えることは、ヌーヴォレコルトもハープスターも素晴らしい能力の持ち主であること。この先、両馬が再び相まみえることもあるだろう。ともにまだ3歳。究極の強さを追求し、ドラマチックな競馬を見せてくれることを期待したい。