【獄中告白】「ルフィ強盗団」山田李沙受刑者が明かす「私が実践した特殊詐欺テクニック」驚愕の中身
《前回までのあらすじ》 埼玉県・川越市の貧しい家庭で生まれ育った山田李沙(27)は定時制高校を卒業後、新宿・歌舞伎町に入り浸る日々を過ごしていた。現状に不安を感じ始めていたある日、Twitter(現・X)で「闇バイト」の募集を見つけると、大金を手にするため特殊詐欺のかけ子として’19年にフィリピンへと渡航する。そこで出会ったのは、後に特殊詐欺と強盗で日本中を震撼させる「ルフィ強盗団」の幹部・渡邉優樹だった。渡邉の仕切るグループで、山田は月に3000万円を詐取する「伝説のかけ子」と呼ばれる存在になるが、ほどなくして拠点が現地警察に摘発される。 【画像】偽名も明記され…"ルフィ強盗団"山田受刑者が作成した「ルフィグループ組織図」 ◆箱内での「拷問」 山田がフィリピンで所属した「箱」(特殊詐欺グループの総称)はAと呼ばれていた。箱のボスを務めたのが渡邉だった。’19年11月、ウエストマカティホテルを拠点としていたA箱とST箱がフィリピン当局に同時摘発された際、幹部と山田は摘発を逃れている。 彼女の証言によれば「警察や知事、現地マフィアとも繋がりがあった幹部は、当局に金銭を支払い、コアメンバーを選別した上で″残した″」という。シノギに利用できる人間は守り、そうでなければ容赦なく切り捨てる。そこに、ルフィグループの本質がある。 「摘発後も、私は毎月3000万円程度を″売り上げ″(詐取し)ていました。今思うと、ルフィグループが管理する箱のメンバーたちは恐怖で支配されていた側面が非常に強かった。 新人に大量の下剤が入った酒を飲ませて苦しむ様子を見て楽しんでいたし、『帰国したい』と言ったメンバーが急に姿を消したこともあった。後に『あいつは帰国しようとしたから病気で死んだことにした』という話を聞きました。水槽に何度も顔を押し込んで窒息させたり、銃で頭を殴ったり、四つん這いにさせて肛門に歯ブラシを出し入れする拷問もあった。 渡邉さんと一緒にA箱を仕切っていた藤田聖也(としや)さんが、突然仲間の一人をみんなの前で怒鳴りつけ、何度も平手打ちしていたこともありました。バックレようとした受け子をリンチし、耳を削ぎ取った様子を動画で見せられたこともあります。『殺人の動画を持っている』とも話していました。仕事を少しでもサボったり、藤田さんの機嫌が悪い時は、メッセージアプリ『テレグラム』で、『殺すぞ!』と脅される。あまりの辛さから、私も5回は辞めようと思いました。ただ、脅迫を間近で見ていたから怖くて、努力すれば殺されなくて済むと考えた。それは他のメンバーも一緒だったと思います。」 A箱は’19年11月の摘発後、マカティ市内の別のホテルに移転。その後、700㎞離れたバコロド市内のホテルへ飛行機で移動した後、ボラカイ島、ルソン島と拠点を次々と移した。この間、山田は渡邉の指示で″本部″と呼ばれる箱にも顔を出していた。 「バコロドのホテルにチェックインした後、渡邉さんに『本部の様子を見てきてほしい』と頼まれたのです。一人でマニラの箱に向かい、かけ子として2週間稼働しました。本部には有名な半グレやヤクザが約30人いて、その8割が『日本で人を殺したことがある』と聞きました。本部の正式名称は怖くて明かせません。ルフィグループの黒幕として一部報道があった、フィリピンを拠点とする邦人犯罪組織『JPドラゴン』のメンバーにも会ったことがあります。若いイメージを抱かれているかもしれませんが、その多くは40~50代と高齢でしたね。」 ◆仲間に感じた苛立ち A箱はボラカイ島では、一軒家を借りて共同生活を行った。そこで山田は「闇バイトに応募する者たちの特性のようなものを感じていた」と回顧する。 「私たちの箱には40人ほどが籍を置き、年齢も10~60代と幅広かった。女性も在籍していました。多くが、『楽をして金を稼ぎたい』という人種でした。特殊詐欺グループに入ってくる人は、大半が怒られることに免疫がない。ですが、特殊詐欺は普通の仕事の何倍も怒られる機会が多い。そこに大きなギャップがありました。 だから、『何が何でも稼ぎたい』という強い意志がない人間は絶対に稼げない。それでも、A箱は他の箱に比べると緩いほうでした。ST箱は稼げないかけ子をすぐクビにしていましたが、A箱は居場所をチクられることを恐れ、極力人を切らなかった。渡邉さんは『みんなで稼ごう』という方針で箱を運営し、私は彼を『日本一のボス』だと思っていました。」 だが、その一方で仕事量には格差が生まれた。山田は同箱のメンバーに対して、怒りを滲ませる場面もあった。 「例えば熊井ひとみさん(’23年に窃盗容疑で逮捕)。摘発時には今後が不安だと、『わーん、わーん』と子どものように泣いていました。やっていることが犯罪だから何が起きても仕方ない、という覚悟が彼女にはなかった。熊井さんは色仕掛けをする上に、仕事も不真面目。私は、ここに男を作りに来たのかとさえ思っていました。 実際に熊井さんと付き合った藤田海里くん(’23年に窃盗容疑で逮捕)は、『青山学院大学を出ている』と吹聴していた。後に嘘だと分かるのですが、他にも東京六大学出身だと自称する人間がいました。親は裕福だけど、日本での生活に閉塞感を感じ、頑張ることを諦めたという子もいた。海里くんも『日本に飽きたからここに来た』と言っていました。 拠点をホテルから一軒家に移してからはみんながリビングに集まる時間が増えました。そこでお酒を飲んだり、ゲームをしたり、車の免許合宿みたいなノリがあった。カップルができたりして、『特殊詐欺グループのシェアハウス』みたいな感じでしたね。海里くんのように学歴や経歴で嘘をつく人もいて、『俺は世田谷区に友達が多い』とか、見栄の張り合いもあった。本当にくだらなくて、私は『何でもいいから仕事をしてから言えよ』と冷めた目で見ていました。」 A箱の中で、月に1000万円以上を詐取するようなかけ子は、山田を含めて2~3人だったという。マニュアルに頼る方法には限界がある。それが″トッププレーヤー″だった山田の出した結論だった。実際に利用していた詐欺トークはどんなものだったのか。 「グループには『原作』(詐欺トークのマニュアル)が存在しましたが、マニュアル通りに話すことはほぼなく、臨機応変な対応をしていました。かけ子は一日100件以上、住所や氏名、電話番号がまとめられたWEBサイト『住所でポン!』を見て、無作為に電話をかけていました。A箱のかけ子は、ほぼ100%警察になりすましていた。日本人は、警察、銀行、省庁といったお堅い肩書に弱い。それを強く感じましたね。騙されないほうがおかしい、とさえ当時は思っていました。 私たちはありえそうなことしか話しません。だから騙せる。例えば『〇〇警察〇〇課の五十嵐です。〇〇銀行の職員が不正で逮捕された。あなたの口座に関する情報があり、悪用されている恐れがある』といった調子です。 これを『一線』と呼ばれる口座残高や個人情報を確認する部隊が行い、被害を報告し暗証番号などを聞き出す『二線』の部隊に引き継ぐ。そして、『三線』が日本にいる受け出し(現金の引き出しなどの担当)に指示を出すという流れです。 私が担当していたのは一線と二線で、一線の通話時間は5分ほど。引っ張りすぎてもよくない。逆に二線は1時間程度かけてやることもある。組織のかけ子は数百人単位で、受け出しは入れ替わりで数百人から千人ほど存在していました。」 ◆「餌食」は瞬時に分かる 山田は、かけ子としての″勘″にも言及する。 「特殊詐欺のマニュアルは、常にアップデートされる。だから、マニュアルの公開は意味を持ちません。組織の残党は、新しい『原作』を、日々作っているからです。それに『もしもし』の声のトーンで、騙される人かどうかはほぼ分かる。怒鳴り散らす人、自分は大丈夫、と思い込んでいる人ほど餌食になりやすく、かけ子の勘は驚くほど精度が高い。(特殊詐欺に)騙されないためには、一切取り合わないこと。それしかありません。」 ’21年4月、詐欺や恐喝で国際指名手配されていた渡邉がマニラ市内の5つ星ホテルで拘束された。以降、山田は「グループに限界を感じ始めた」と述懐する。 「幹部たちが拘束された後、かけ子の取り分は売り上げの5%から8%に上がりました。これは嬉しかったのですが、各々が好き勝手をしはじめた面もあった。『もう(この箱は)長くはもたない。死ぬまで犯罪で生きていくのは嫌だ』とも強く感じたんです。 また、日本に一人で住む母のことも心配で『罪を償ってでも帰国したい』と考えるようになっていった。’23年の1月、自ら日本大使館に出向き、拘束されました。その後に収容されたのが、ルフィグループの幹部が数多く収容されたことで有名になったビクタン収容所でした。」 こうして山田は、ビクタン収容所で渡邉や藤田ら幹部と再会する。そこには「ルフィ」を名乗っていた幹部の一人、今村磨人(きよと)の姿もあり、これが山田とは初めての対面だった。山田は特殊詐欺のかけ子以外の犯罪には手を染めてこなかった。その一線は明確に引いてきたためだ。 しかし、収容所では幹部たちによって「強盗」についての相談がなされていた。山田はそこで、自身がかつて「日本一のボス」と慕った渡邉の異なる顔と直面することになる。 (文中一部呼称略。以下次号) 取材・文/栗田シメイ(ノンフィクションライター) ’87年生まれ。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材。著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数 『FRIDAY』2024年7月26日・8月2日合併号より 取材・文:栗田シメイ(ノンフィクションライター)
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