「性交渉をしたら退学」「校則のない学校のはずが…」学校で横行する理不尽の数々
校則がない学校のはずなのに…
東京の私立S高校は、伝統的な女子校として知られていたが、2020年度から男女共学化し、再スタートを図った。共学化に伴い、女子校時代にあった厳しい校則も廃止したほか、定期テストを廃止し、日々の単元テストやパフォーマンスから成績評価を行うといった、個性豊かな取り組みを導入した。実際に学校説明会でも「校則はない」と明確に説明し、自由な校風をアピールしている。 そんなS高校に、2021年度から入学したのが男子生徒Nだった。この年度を境に、自由が取り柄だったS高校は徐々に崩壊していく。校則がないにも関わらず、教員個人の基準によって指定品着用や頭髪に関する指導が行われるようになったのだ。同年秋に生徒会長に就任したNは、校長への直談判や署名活動など様々な手段で訴えようとするも、結局校長と話をすることすらできず、署名も無効とされた。 2022年度には「ドレスコード」なるものが制定された。その内容は(現在までに何度かの改変を経ている)、「登校時は茶のローファーを着用すること」「装飾品は禁止」「頭髪の加工は禁止」「スラックス着用時は黒紺白など落ち着いた色の足首が隠れる靴下を着用」など、一般的な理不尽校則と何ら変わりのないものであったが、学校説明会やパンフレットでは引き続き校則がないとの説明がなされた。その年の12月には、2年生の学年集会で「指導に従わないと推薦を出さない」などという脅しもなされた。 2023年度には、目玉だった日々の単元テストでの成績評価を、河合塾の模試が半分を占める評価方法に突然変更。模試にはまだ授業で習っていない範囲も含まれていたというが、「成績をつけるうえでの配慮はされていない」と、ある生徒は語る。また、理不尽な校則が社会問題化したことで是正の動きが広がっていた「地毛証明書」も、S高校ではこの年度から携帯・提出が求められるようになった。
生徒会長を解任され…
Nは、こうしたS高校の惨状をSNSで複数回にわたり問題提起。すると、Nは「学校の評判を落とした」として生徒会長を任期途中で解任されてしまった。こうしてNは、2023年8月、東京弁護士会に対し、人権救済申し立てを起こし、文部科学省で記者会見を行った。しかし、残念ながら現在までに事態の改善は見られていない。2024年度入学生からは、パンフレットから「校則がない」という文言がひっそりと消え、入学時には「ドレスコードを厳守しないと、いかなる請求・処分を受けても異議はない」「貴校の名誉を害さない」などという内容の誓約書にサインさせるなどの指導が始まっている。 こうした一連の改変に対し、一部生徒や保護者のあいだから「詐欺だ」という声が高まっているが、Nのように表立って声をあげる人は少ないのが事態だ。ある関係者は、「あの学校はおかしい。声を上げたらどんな報復をされるかわからない…」と恐れる。実際に学校側が「報復」を行うかどうかはともかく、こうした声は、これまでの学校経営によって、関係者の学校への信頼をもはや修復不可能なまでにしたということを物語っている。 校則がないのであれば、頭髪・服装指導を行う理由もない。そのようなことを述べると、「無法地帯になるのでは」と危惧する人も多いが、いじめなどの犯罪行為への対処は法律や懲戒処分で十分なはずだ。少なくとも、校則の存在しない複数の他校では、生徒は自由な身なりで平和に学校生活を送っている。 では、なぜS高校は、このような事態に陥ってしまったのか。筆者の調べによると、共学化前から在籍している教員の一人は「大麻や特殊詐欺などの危険因子を遠ざけたかった」と指導の理由を明かしていたことが判明している。学園の経営コンサルタントは、同学園の生徒に対し、「新しい学校づくりにどんどん参加して、いろいろな意見を言って、充実した学校生活を作っていってもらいたいと思っています」と語っているが、現場の実態は逆である。 おそらく、経営の改善を図るため、目新しい自由な教育で入学者を募集したものの、現場の力量や人権感覚が追いついておらず、こうした混乱を招いてしまったのだろうと筆者は推測している。 後編【副理事長の恫喝で「保護者が過呼吸」に…Netflix『恋愛バトルロワイヤル』でも描かれた、閉鎖的な学校のヤバさ】では、学校という閉鎖環境で起こった事件についてさらに紹介する。
中村 眞大