シューマッハ、オシムらを救う「脳低温療法」とは?
患者は、脳から流れてくる血液の温度を測るため、静脈にセンサーを差し込まれる。このほか、心電図や心肺機能モニター、脳波など、重装備に覆われることになる。どれくらいの期間、低体温を続けるかについては、明確な基準はなく、ケースバイケースで判断されるという。 オシム氏の場合は、それほど期間は長くなかった。ウェブサイト「脳梗塞ネット」によると、オシム氏は2007年11月に自宅で突然倒れ、一時は「厳しい状況、命をとりとめてほしい」(川淵三郎 日本サッカー協会名誉会長)と発表された。しかし、「病院に搬送されてから約10日間にわたって受けた脳低温療法によって脳浮腫が防止され、意識障害や記憶障害など重度の障害を免れた」。その後は、記憶も思考もほぼ完全に回復。20年前のユーゴスラビア時代、サラエボで開かれた欧州選手権予選の試合展開やスコア、得点者なども正確に思い出せるほどだというから、その治療効果の高さには目を見張るものがある。 ただ、過度の期待を戒める意見も聞かれる。この治療法は、効果にばらつきが多い、というのだ。救急医療の現場で脳低温療法を行った経験がある千葉県の男性医師(40)は「体力のある若い人で、心筋梗塞など脳にダメージがない状態なら、脳低温療法は効果的で、踏み切りやすい。ただ、外傷や脳こうそくなど脳にダメージがある状態ではリスクがあり、議論が分かれるところ」と話す。オシム氏のケースはかなり上手くいった幸運な例ということか。他の専門家の間でも、「死ぬべき人を植物状態にしてしまい、家族に苦しみをもたらすこともある」という指摘もある。 これに対し、日本脳低温療法学会の林成之会長は「そういうことはない。間違っている。高い治療効果が得られることはわれわれの研究で確立している。難しいのは、脳の酸素や血糖値など高度な管理が求められるところ。多くの人が勘違いしているが、冷やせば治る、というものではない。緻密な管理が求められる」と指摘する。 その上で、「長嶋茂雄さんがこの治療を受けられなかったのは、非常に残念。オシムさんの方が症状は重かったが回復した。アメリカでは日本より進んでいて、心臓が止まったらこの療法を施さないといけない、とマニュアルで定められているほどだ。この治療法は年々成果が上がってきており、シューマッハだけでなく、これからもますます治療成果が出てくるはず」と話している。 ※参考:日本脳低温療法研究会ウェブサイト (文責・坂本宗之祐)