<中国が海外渡航を禁止?>「勤務先へパスポート提出」「海外旅行の回数制限」…一部の中国人の間で今、起きていること
コロナ禍から残る「出国規制」
実は、この知人自身も、同様のことをコロナ禍で経験しており、筆者もその話を直に聞いたことがある。当時(21年後半)の取材メモを見返すと、次のように語っていた。 「コロナが流行してからずっと、夏休みも毎朝スマホに職場からチェックが入ります。すぐに健康コードを見せて、問題ないことを報告しなければなりません。何時間も返信しないでいると、上層部に連絡が入り、おおごとになります。今、自宅なのか、どこにいるのかも連絡します。 とくに厳しいのが教師、公務員、国有企業の社員です。省をまたぐ外出は、外出の理由と日程が厳格に管理されています。それだけでなく、海外旅行は絶対禁止。事務担当者にパスポートを提出させられている先生もいます」 しかし、コロナ禍は落ち着き、23年から中国人の海外渡航は自由に行われているはずだ。日本などに来る団体旅行は本格的に開始されていないが、個人旅行は徐々に回復している。 そのため、金銭面で問題がなければ、いつでも海外に行けるようになったと思っていたが、他の複数の中国人にも聞いてみたところ、「依然として教師、公務員、国有企業の社員などの一部には出国規制がかかっている」という。 筆者のある知人は準公務員という立場だが、「海外に出国できるのは1年に2回まで。正当な理由がある場合のみ」と上司から言われたと話しており、「そういうふうに言われれば、パスポートを1回返してもらうだけでも緊張してしまう。つまり、行くなということですね」とあきらめ顔で話していた。
海外移住ブーム食い止めか?
明文化されているものではないので、出国規制の対象者や範囲、理由などはわからない。だが、前述の知人いわく「できるだけ海外に行かせたくないという意図が働いていることは確か」だという。 その背景にあると想像されるのは、コロナ禍以降、急速に増えている富裕層などの海外移住ブームだ。とくに、21年以降の「共同富裕」政策により、大手企業へのしめつけが強化された。 教育面でも、習近平思想教育などが学校で実施されている。政府は富裕層だけでなく、それ以外の人々の動向にも目を光らせており、彼らが財産を海外に移すことを警戒している。 最後に、知人は「これは、あくまでも私の想像ですが……」と前置きしつつ、次のように語ってくれた。 「夏休みは家族で海外に行く人が多いですが、その際、子どものため、海外の学校を見学する機会もあると思います。海外で不動産物件を内覧したり、海外移住のための準備をしたりする人もいるでしょう。そういうことをできるだけ防ぎたい、というのも(パスポート取り上げの)一因かもしれません。 コロナ禍が落ち着いたのだから、国内旅行に行き、国内で消費して、ということもあるのかもしれませんが、とても不可解だなと感じています。こうした動きがもっと広がることを心配しています」
中島恵