街が観光客で溢れようと「あの国が悪い」との論調に決して乗ってはいけない…大きな課題を抱える日本は「観光」にどう向き合うべきか アレックス・カー×清野由美
◆中国人観光客の増加 バルセロナをはじめ、世界各国の観光地が悩まされているオーバーツーリズムですが、その要因は多様です。 日本国内でいうと、観光立国戦略のもとで外国人の入国者、とりわけ中国人に対するビザの緩和措置が挙げられますが、世界で共通の要因としては以下のものが考えられます。 ・新興国からの観光客の増加 ・LCC(Low Cost Carrier =格安航空会社)の浸透で、海外旅行体験のハードルが著しく下がったこと ・SNSなど、言語の壁を超えた情報の無料化が進み、そこに「セルフィー(自撮り)」という新しい自己顕示のトレンドが生まれたこと 新興国の観光客の中で、とりわけ大きな現象は、中国人観光客の爆発的な増加です。 中国国家統計局によると中国人の海外旅行者数は2005年には3000万人(中国国家統計局)でしたが、19年は1億5463万人(国土交通省)へと大きく増加。国連世界観光機関の「国際観光支出」によれば、世界での観光消費額も2位のアメリカに約2倍の差をつけて、ダントツになっています。 日本政府観光局の「訪問客数の推移」によると、来日する中国人観光客は16年に過去最多の637万人となり、前年比で25%以上も増えたとされています。 コロナ後でも、中国ではパスポートを発給されている人は、まだ人口の数%に過ぎないといわれており、今後、年間1000万人の単位で受給者数が増えていくとされています。 中国人の次には、やはり人口が圧倒的なインド人の観光客も控えています。インバウンド数の伸びとともにオーバーツーリズムは今後も、私たちの想像を超える規模で広がっていくことが予想できます。
◆「あの国の観光客がダメにしている」論に乗ってはいけない ただし、「オーバーツーリズムの原因は中国人である」などと決めつけることは間違っています。一国が経済成長を果たし、その国民が世界中を闊歩するようになると、世界各地で軋轢を起こすようになることは世の習いだからです。 ですので、外国人が日本をダメにしている、という安易な論調に乗ってはいけません。 アメリカ人は1950、60年代に、フランスやイタリアに観光に出かけ、傍若無人に振る舞ったことで、「醜いアメリカ人(アグリー・アメリカン)」として嫌われました。 その後は経済力を付けたドイツ人と日本人が、「アグリー・ジャーマン」「アグリー・ジャパニーズ」と呼ばれました。バブルのころは、日本人観光客もパリの高級ブランド店などで《爆買い》を行って、顰蹙を買いました。 もちろん、受け入れ側のキャパシティをはるかに超えて増大する中国人観光客への対応は必要です。しかし、それは「中国人観光客が悪い」という話では決してありません。観光「立国」を果たすには、世界の誰をも受け入れた上で、その状況をコントロールする、という構えが重要なのです。 ※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
アレックス・カー,清野由美
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