ご本家の味(10月14日)
歯触りがたまらない。刺し身にしたコンニャクの別名は「山ふぐ」。高級な海の幸に似た見た目から付けられた。「ご本家」には、なかなか手が出せないからこその命名か▼矢祭町は昭和期、原料の芋の生産量で県内一を誇り、町内に何軒もの「こんにゃく御殿」が建った。後年、消費が落ち、他県で栽培が盛んになった影響もあって出荷価格が下落した。町内の取れ高は1970年代をピークに下降し、一時、ほぼゼロになったという▼十数年前、町内の農家が奮起する。品種改良された芋が普及する中、全国でも希少な在来種の植え付けを再開した。改良種と比べ、香りはすこぶる高く、コシが強いのが持ち味だ。成長が遅い上に病気に弱い難点もあるが、失敗を重ねながら、出荷量を増やしてきた。地元の高校生の手を借り、6次化商品づくりを目指す。先達から受け継いだ文化を伝え、産地復活に挑む▼コンニャク加工品の国内からの輸出額は昨年度、コロナ禍前の2・5倍に増えた。健康志向を背景に、海外ではパスタ代わりに食べる人も多いとか。在来種の魅力が広まれば、国内外の旅行者が矢祭に。代用ではない。正真正銘、山ふぐご本家の味を求めて。