その不調、実は筋トレが原因かも……運動科学の第一人者が解説する「ラフな筋トレ」の決定的デメリット
---------- 「ラフ筋トレ」とは、たとえば固く引き締まった大きな筋肉をつくるためだけに、ただ闇雲に行われる筋力トレーニングのことだ。筋肉隆々の体にあこがれを抱き、トレーニングに励む人が増えているが、のめり込むのは果たしていいことなのか。 現役の武術家、運動科学者である高岡英夫氏が、ラフ筋トレに潜む危うさを指摘する。『レフ筋トレ 最高に動ける体をつくる』よりお届けしよう。 ---------- 「レフ筋トレ」クロス腹筋で腹直筋と腹斜筋を鍛える!
人間に必要なのは「レフパワー」だ
人はなぜ、筋トレをするのでしょうか。トレーニングを重ねれば、間違いなく筋力はつくでしょう。しかし、いわゆる「力持ち」になりたくて筋トレに励んでいる人は、そう多くはないはずです。 むしろ、心身の能力を高め、スポーツで、ビジネスで、あるいは実生活において、より優れたパフォーマンスを発揮するためにトレーニングをしている、という人のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。 筋トレによって筋量が増え、筋力が向上するのは悪いことではありません。しかし、実はそれだけでは足りないものがあります。 どんなにトレーニングを積んでも、筋肉が本来の機能を果たせなければ、人間はよいパフォーマンスを発揮することはできません。むしろ間違ったやり方で鍛えることで固く肥大した筋肉が、能力の発揮を妨げてしまうことさえあるのです。 では、鍛えたはずの筋肉がなぜパフォーマンスをダメにするのか、脳との関係のなかで考察してみましょう。 特定の筋肉(あるいは筋肉群)だけを集中的にトレーニングする人の意識は、もっぱら負荷がかかっている部分に集中的に向けられます。負荷が大きくなればなるほど筋トレは厳しいものになるので、その人は自分を鼓舞し、ある種の興奮状態に達して、ただひたすら筋出力しようとします。 このように、特定の筋出力のため、なりふりかまわず心身を動員して発揮されるパワーを、私は過去の著書で「ラフパワー(Rough Power)」と命名し発表しました。「rough」という英単語には「粗野で荒々しい」という意味がありますが、まさにそのような「粗削り」な筋出力を指す言葉として、新刊『レフ筋トレ 最高に動ける体をつくる』でも「ラフパワー」という言葉を使っています。 野球、サッカー、陸上競技、水泳、氷上・雪上競技など、世の中には多種多様なスポーツがありますが、おおよそ1980年代半ばから2000年前後までの約15年間を頂点として、選手やコーチ、トレーナー達は、このラフパワーを高める筋トレ(すなわち、ラフ筋トレ)に邁進(まいしん)していたと言えます。 しかし、スポーツ競技で必要とされているのは、粗削りなラフパワーではありません。 競技の具体的な場面では、自分を取り巻く状況を十分に察知しながら、同時に絶えず、全身のどの部分のパワーを時間軸に沿ってどのように発揮し、そのためには各部分をどう配置配列しつつ動かせばいいのか、潜在脳で瞬時かつ流動的に次々と判断し、正確に実行する必要があります。 しかも、その判断と実行は、周囲にいるチームメイトや、相手チームの各選手との関係をも考慮して行われねばならないのです。 「時間軸に沿った身体のすべての部分の配置配列」 「行動のタイミング」 「全身と部分の連動」 「パワーにおける力とスピードの配分」 「周囲の変化との対応」 などの膨大なファクターを考慮したうえでの顕在かつ潜在的な身体の統合操作は脳によってなされます。 したがって、現実の競技場面で優れたパフォーマンスを発揮するには脳の優れた統合的活動が必須不可欠であり、優れたプレーをしたいのであれば、脳の高度な活動と統合された状態で筋活動が行われ、パワーが発揮されねばなりません。 そのようなパワー、すなわち脳の高度な活動と筋力の発揮が統合され生み出されるパワーこそ、私が「レフパワー(Refined Power)」と名付けたものなのです。これは、粗野で荒々しい「ラフ」に対し、精製され洗練されたという意味の英単語「refined(リファインド)」の、最初の3文字「ref(レフ)」を取った言葉です。 レフパワーを発揮するには、筋肉がゆるゆるにゆるみきっていなければいけません。そんな「ゆるみきった」筋肉をつくり、レフパワーを向上させる筋トレが「レフ筋トレ」です。