世界中が歌詞に共感、マーク・アンバーが語るコールドプレイへの憧れと音楽が持つ力
デビューアルバム制作秘話「みんなをフィールグッドにしたい」
ーまもなくリリースされる1stアルバム『Rockwood』には、幼い頃からよく遊んでいた故郷の公園の名が付けられています。なぜそれをタイトルに? マーク:ロックウッドはニューヨークにある州立公園の名前なんだ。ハドソン川沿いの公園で、幼い頃からよく友達と遊びに行っていた。夕陽を眺めたり、ピクニックをしたり、あてもなくブラブラしたり。そこにいるだけでフィールグッドにしてくれる場所なんだ。世の中の嫌なことを一瞬だけ忘れて、肩の荷を降ろして楽しい気分にしてくれる。僕にとってロックウッドがそうであるように、このアルバムを聴いて、みんなにもフィールグッドな気持ちになってほしいんだ。生まれ故郷ってとても大切な場所だと思うんだ。家族や友人のことを思い出させてくれて、自分のいるべき場所という感じがして。そんな思いを込めて、デビューアルバムにはロックウッドと付けたんだ。 ーロックウッドは、マンハッタンから、どれくらい離れてますか? マーク:電車で50分、車で1時間少しかな。 ー今でもその近くに住んでいる? マーク:とりあえずは(笑)。「Belong Together」でブレイクして以来、ずっとツアーを続けているから、ほとんど家には帰れてないけど、今でも近くに住んでいる。ニューヨークが好きだから、最終的にはニューヨークに住みたいと思っているんだ。 ーとなると、いずれはマンハッタンに移住するとか? マーク:いやいや、そうじゃなくて、僕が住みたいのはニューヨークでも森のそば。木々に囲まれたニューヨークだね(笑)。自然の中で暮らしたいんだ。 ー「Academy Street」という曲のアカデミー・ストリートもロックウッドに? マーク:そうなんだ、実は初恋の相手が住んでいたストリートの名前だよ。僕は良くないことはサッサと忘れる性格で、良かったことだけ覚えている。だけど、けっこうノスタルジックなところがあるんだよね(笑)。この曲で歌っているのは、最初のガールフレンドのこと。今でも時々思い出したり、懐かしく思うんだよね。そういう気持ちを歌っている。初恋って一度きりのことだし、少し感慨深くもあって……。この曲について尋ねられたのはこれが初めてだよ。訊いてくれてありがとう(笑)。 ーこちらこそ、訊いて良かったです(笑)。ところで、作詞、作曲はもちろん、歌や演奏、プロデュースまで、デビューアルバムなのに、ほぼ全てをマーク自身が行っていますよね。 マーク:基本的には、自分で全て曲を書いて、プロデュースもやっている。Logicって知ってる? あれを使って自宅の地下で制作してるんだ。そこに共同プロデューサーのノエル・ザンカネラ(ワンリパブリック、テイラー・スウィフト)が加わって、パーカッションやドラムを入れて、少しハードにアレンジしてくれる。彼は良き相談役でもあり、僕の将来について一緒に考えたりしてくれるんだ。 ー以前に発表していた楽曲やEP『Hello World』と比べて、トラッド色やアメリカーナな方向性が強くなっていますよね。レコーディングの段階からそういったサウンドを意識していたのですか? マーク:元々そういうタイプの音楽が好きだったから、もちろん意識はしていたよ。アメリカーナなサウンドって、僕にとっては温かく守られている感じかな。すごくしっくり来るんだよね。このアルバムにも、そういう感覚が欲しいと思ったし、ギターやオルガン、ドラムなどオーガニックな音色を活かしたかったんだ。 ー欧米では小さなクラブから大きなフェスまで、さまざまな規模のオーディエンスを前にツアーをされています。どのようなアプローチで臨んでいますか? マーク:規模にかかわらず、常に100%以上の力を出し切りたいと思っているよ。君の言う大きなフェスというのは、オランダで出演する機会に恵まれたもの。4万人の観客を前に、すごくクレイジーだったよ。アジアにも行きたいと思っているし、もちろん日本にも。とにかくチャンスがあれば、どこにでも行ってみたいと思っている。僕の曲がその国でどれくらい受けているか次第かな。うん、世界中に行けるといいな。 ーこれまで日本を訪れたことは? マーク:まだないんだけど、とにかく素晴らしいって話は聞いてるよ。兄が日本に行ったことがあって、日本が大好きなんだ。街がきれいで清潔で、みんなが礼儀正しくて、社会規範が素晴らしいって聞いている。 ー清潔といえば、マークの歯も歌っている時に、いつもキラキラ。笑顔と共に、とても印象的ですが。 マーク:アハハ。いつもフロスしたり、歯磨きは念入りにやってるよ。あと子どもの頃にブレースを付けてたおかげかな。きっとそうだと思うな。 ー自分がZ世代だなと自覚することは?(1997年生まれ) もしくは、自分は当て嵌まらないなと感じることはありますか? マーク:おそらく僕は、ミレニアル世代とZ世代の中間あたりじゃないかと思うんだ。行動パターンからするとZ世代寄りかな。Z世代の方がミレニアルより冒険心が強いというか、ミレニアルはまだ前世代的な感覚を引きずってる気がするな。あ、でも僕が勝手に思っているだけ。世間一般とは違っているかもだけど。 ー先ほど、あまり良くないことが世界で起こっていると仰っていましたが、具体的にはどのようなことを踏まえての発言ですか? マーク:うん、アメリカの政治的な情勢に関してもそうだし、中東で起こっていることや戦争なども。きっと回避することができると思うんだよね。途方もなく大きな意見の相違があるのは分かるけど、暴力以外の方法で何とか解決できないものかと思うんだ。人生は一度きり。この世に生まれて、地球上に生まれたことって、それこそとても素晴らしいことだと思うんだよね。なのに他の人の人生を台無しにしようとしたり。僕にはとてもネガティブに映るんだ。そこに僕は価値や意義を見出せないんだ。 ーだからこそポジティブにしてくれる音楽をやりたいと? マーク:そう、フィールグッドに感じることって、とても大切だと思うんだ。世の中には嫌なことが多いし、ニュースを見ても気が滅入ることばかり。でも、そういう世の中だからこそ、現実逃避でもいいから、いい気持ちを思い出すことが大切だと思うんだ。自分に誇りをもって胸を張れたり、友達の幸せを心から一緒に喜ぶことができたり。自身の過去や未来について思いを巡らせたり。そういったことに僕はインスパイアされるし、他の人に対してもインスパイアしたいんだ。 ーマークにとって音楽以外で、そうした役目を果たしてくれることはありますか? マーク:僕の場合は、屋外にいることや自然かな。友人とよくハイキングに行ったり、焚き火をしたり、そういった野外でのアクティビティが好きなんだ。音楽を作っている時以外は、大抵自然の中で過ごしているよ。 ー最後にアルバムのリリース後の予定と、アーティストとしての今後の目標を教えてください。 マーク:8月16日にアルバムがリリースされて、その後、秋から春にかけてツアーを行う予定。きっと追加の日程もそのうち発表されるんじゃないかな。アーティストとしての目標は、やはりみんなをフィールグッドにしたいってこと。心の拠り所となる心地よい場所をみんなに提供したいんだ。そんな音楽を作って多くの人に伝えたい。やるからには、とことんやりたい。そういう性格なんだ。 ーお忙しいところ、今日はどうもありがとうございました。アルバムの成功も祈っています。 マーク:こちらこそ、どうもありがとう。楽しいインタビューだったよ。次回は日本で。じゃあまた!
Hisashi Murakami