三谷幸喜が語る創作の秘密 『鎌倉殿の13人』で大活躍した2人の殺し屋の「誕生秘話」
公開直後から早くも話題になっている新作映画『スオミの話をしよう』。 同作の脚本・監督をつとめた三谷幸喜さんが、この映画をはじめ、傑作大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や最新舞台『オデッサ』など、各作品の舞台裏からアイデア・創作の技法までをたっぷりと語った最新刊『三谷幸喜 創作の謎』(三谷幸喜 松野大介著)が発売されました。その内容を特別に公開します。 【写真】「俳優さん同士のセリフのやりとりを、さらに面白く見せる」究極のテクニック 今回は、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を盛り上げた「二人の殺し屋」についてです。 (聞き手:松野大介さん) ※本記事は『三谷幸喜 創作の謎』(三谷幸喜・松野大介著)から抜粋・編集したものです。
役がハマりすぎた、梶原善さんの「善児」
――実在の人物だけでなく、架空のキャラの活躍が目立ちましたね。 三谷:架空の人物の善児については、まず梶原善に大河ドラマに出てほしいという思いがありました。 ――三谷さん主宰の劇団、東京サンシャインボーイズのメンバーでした。 三谷:彼には昔から、殺し屋の役をやってほしいと思っていて。あのひょうひょうとした雰囲気で殺戮を繰り返すというのが、なんだか怖くて。そんな役、彼しかできないんじゃないかって。 鎌倉時代を調べると、あまりにたくさんの人が暗殺される。当然犯人は一人ではないんだけど、どうせだったら同じ人間に全部やらせてみようかな、と。それであのキャラが生まれ、だったらやるのは梶原善しかいない。 名前も善児にして、プロデューサーにも「この役は梶原善しかいない」とアピール。 一話目から早くも一人殺している。これが強烈なインパクトを視聴者に与えたみたいで、それから誰かを殺すたびに注目されていった。彼がプライベートで自分の子供と多摩川の川原に遊びに行ったら、みんな逃げていったらしい(笑)。それくらい善児が浸透していきました。 そうなってくると今度は演出チームが「次はどんな殺し方がいいか」といろいろ考えてくれて。僕は細かい部分は彼らにお任せして、演出チームが毎回、殺し方と撮り方を工夫。『必殺仕事人』みたいになっていった。実は壇ノ浦の戦い(18話「壇ノ浦で舞った男」)にも善児は参加する予定で、安徳天皇の死にも関わっているという設定だったんだけど、プロデューサーから「それはさすがにやりすぎ」と止められました。 あんまり人気者になったから、次は、いつ退場させるかで悩みました。最終回まで残す案もあったんだけど、「いや、むしろ視聴者から飽きられる前に終わらせたほうがいい」と僕が言って、結局修善寺の頼家暗殺の回で死ぬことになった(33話「修善寺」)。 ――人気が沸騰すると冷めるのも早いのがテレビ。しかし当て書きの最たる例ですし、1年間続く大河ドラマだからこその進展や変更です。 三谷:梶原善本人は「もう少し出ていたい」と寂しがっていましたけど、あれで良かった気がする。散り方も素晴らしかったし。大河ドラマ内の架空の人物枠の中では、けっこう印象に残る存在だったんじゃないかな。